◆環境・防災◆  松の葉の気孔観察により大気汚染の状態を知る
 近年の交通量の増加で、移動体起源の大気汚染が一部の地域で深刻化している。松の葉の気孔は針状の形態に沿って並んでいるので、顕微鏡観察により汚染率を調査することができ、大気汚染を間接的に調べることができる。気孔に取り込まれた粒子の成分をイオンクロマトグラフィーにより分析すると、大学にある松の木の葉では気孔の内部に取り込まれている粒子の成分は、塩化物イオン(85%)、硫酸イオン(18%)、硝酸イオン(3%)であった。葉の表面に付着している粒子と比較すると、硝酸イオンが気孔内部に取り込まれにくいことが明らかになった。
【1C13】   松の葉の気孔とその溶出成分の分析

  (鳴門教育大学)○村田勝夫・高山 光・武市周子
  (連絡者:村田勝夫,E-mail : muratak@naruto-u.ac.jp)
      
 全国の主要道路沿いや中央分離帯には,さまざまな常緑低木が植えられており,安全と浄化と景観の役を担っている。たとえば中央分離帯にあるツツジ,沿道にある柳やポプラなどの樹木などは,運輸事情のために舗装された道路の沿線上には欠かせない機能を果たしている。しかし企業や工場からの排煙の汚染対策は進んでいるものの,近年の交通量の増加で,移動体起源の大気汚染が一部の地域で深刻化している。
 最近,学校教育の中でも環境教育の観点から,身近な自然をとりあげて,そこからいろいろなものを調べることが多くなってきた。いくつかの学校では,たとえば松の葉の気孔の汚れを顕微鏡観察し,大気汚染の状態を調べることが,行われるようになった。一般植物の葉の気孔は,四方に分散しているが普通であるが,松の葉の気孔は針状の形態に沿ってきれいに並んでいるので,顕微鏡観察による汚染率を調査するのに優れている。このように顕微鏡観察によって,その地域の大気汚染を間接的に調べることができるが,気孔に取り込まれる粒子が,どんな種類の成分であるかは,それを化学的に調べなくてはならない。また私たちは,葉の表面に付着する成分と,気孔の中まで捉えられる粒子の成分には,どんな特徴があるのかに興味を持ち,イオンクロマトグラフィを用いて調べてみました。
 大学にある松の木の葉の気候を調べると,葉の表面に付着している粒子では,塩化物イオン(70%),硫酸イオン(18%),硝酸イオン(12%)で,塩化物イオンが圧倒的に多いのが特徴です。気孔の内部に取り込まれている粒子の成分では,塩化物イオン(85%),硫酸イオン(12%),硝酸イオン(3%)であった。つまり,上記のイオンの中では,硝酸イオンの粒子成分が,気孔内部に取り込まれにくいことを表している。また松の木の葉の高さの部位による違いも調査した。その結果,塩化物イオンと硝酸イオンには,顕著な高さによる影響は見られなかったが,硫酸イオンにおいて,高さの影響が見られた。