◆環境・防災◆  室戸海洋深層水に含まれる表層由来物質を調べる
 室戸海洋深層水は室戸岬の沖、水深約320mから採取され、養殖、飲料水、食品、化粧品など様々な分野で利用が進められている。この深層水の中に海洋表層に起因する物質がどの程度含まれているのかを調べた。深層水中の溶存有機態物質を分析したところ、表層の生物活動に起因すると思われる疎水性有機態銅、有機態セレン、ビタミンB12について季節変動が認められた。海洋表層からの粒子状物質の沈降に伴ってこれらの物質が深層水中にもたらされていることが推測され、深層水の水質浄化のためには海洋表層の清浄化も重要であることが示された。
【1C02】   有機態微量元素からみた室戸海洋深層水の特性について

 (高知女大生活科学)○一色健司・渡邊文雄
 [連絡者:一色健司,
E-mail:isshiki@cc.kochi-wu.ac.jp]

 室戸海洋深層水は新しい資源として注目されており,養殖,飲料水,食品,化粧品など,さまざまな分野で利用が進められている。室戸海洋深層水は,現在は,取水管によって室戸岬沖水深約320mから採取されている。室戸海洋深層水は,局所涌昇により取水深度よりも深層の海水を多く含むと推定されているが,同時に陸起源物質,海洋表層起源物質の影響も受けている可能性がある(図)。本研究は,主として表層の生物活動によって生成する有機態微量金属に注目し,室戸海洋深層水が表層の影響を実際に受けているかどうか,受けているとすればどの程度なのかを明らかにすることを目的としている。

 本研究において,2000年夏から冬にかけて,室戸海洋深層水中の疎水性有機態銅,有機態セレン,ビタミンB12(有機態コバルトの一種)の各濃度を測定したところ,いずれも夏に濃度が高くその後減少するという傾向を示した。これらの変動は,表層の生物生産の季節変動と対応するものであると考えられるので,溶存有機態元素からみると,室戸海洋深層水は表層近傍の生物活動に起源を持つと思われる有機物質の影響を受けている可能性が高い。室戸海洋深層水中の粒子状物質濃度の測定結果と考えあわせると,これらの有機物質は粒子状物質とともに表層から供給されているものと考えられる。
 このことは,室戸海洋深層水の水質の清浄な状態を維持するためには,取水海域表層の環境を清浄に保つことが必要であることを示している。今後とも,優れた水質の室戸海洋深層水の供給を継続するためには,深層の水だから清浄であると安心することなく,取水海域の環境保全にも留意することが必要であろう。