◆環境・防災◆   琵琶湖水中の有機物質フルボ酸の分布から起源を探る

湖沼や河川などの陸水の環境を考えるうえで,湖水中の有機物の挙動を知ることは不可欠である。しかし,陸水中の有機物の多くは,腐植物質と呼ばれる複雑な構造を有する有機物であり,その分布が明らかとなっていない。そのため,著者らは,琵琶湖水中の腐植物質,特に水に溶けやすいフルボ酸に着目し,その分析を行った。その結果,琵琶湖湖水中のフルボ酸は全溶存有機炭素の30〜40%を占めること,その起源は河川からの流入が主であること,などの知見が得られた。

琵琶湖水中に溶存するフルボ酸の分布に関する研究

(姫路工大環境人間・滋賀県琵琶湖研)○杉山裕子、姉川彩、早川和秀
[連絡先:杉山裕子]

琵琶湖水中に溶存する有機物は、河川から流入してきたものと、湖内で生成したものに分かれる。河川から流入してくるものとしては、集水域の森林土壌を起源とする腐植物質や、田畑の土壌起源の有機物質、界面活性剤などの人工有機化合物などがあり、湖内で生成した自生の有機物としては、プランクトンの一次生産によって作られる炭水化物や蛋白質、それらの代謝生成物などがある。一般に陸水は集水域の影響を強く受け、湖水の溶存物質の組成は自生のものよりも流入成分に支配されると言われている。しかし、溶存有機物質に関して、河川水起源のものと自生のものを分けて測定した研究はほとんどない。本研究は河川から流入した有機物の主要な成分である腐植酸、とりわけフルボ酸の湖水中での挙動を調べることを目的とした。水中に溶存する腐植物質してはフミン酸とフルボ酸があるが、フミン酸は酸性で水に溶解せず、フルボ酸は酸性でもアルカリ性でも水に溶解する。
琵琶湖の主要な流入河川の一つである安曇川河川水に溶存するフルボ酸をXAD7HP樹脂を用いて抽出し、陽イオン交換樹脂で精製した後凍結乾燥させて河川水溶存フルボ酸標準試料とした。この粉末試料を超純粋に溶解させて河川水起源フルボ酸の定量条件を検討した。定量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分離し、蛍光検出器で検出した。琵琶湖水試料は北湖水深85mの17B地点において2001年5月から2002年1月まではぼ隔月毎に採取し、採水は水深2.5m,7.5m,15m,40m,70mで行った。
3次元励起蛍光測定の結果、安曇川から抽出された溶存フルボ酸は励起300nm,蛍光425nmに蛍光ピークを有した。この波長を用いてGPCによる河川水起源フルボ酸の分離条件を検討した結果、フルボ酸は球状タンパクを分子量マーカーとして、分子量約70k〜100k dalton に相当する保持時間に溶出した。湖水試料をHPLCで測定したところ、フルボ酸標準試料と同じ保持時間にピークが確認され、河川起源フルボ酸が湖水中に溶存していることが分かった。河川水フルボ酸標準溶液のGPCクロマトグラムのピーク面積とDOC濃度を用いて検量線を作成し、この検量線を用いて琵琶湖水中の河川起源フルボ酸の占める溶存有機炭素濃度を測定した。琵琶湖水中において河川水起源フルボ酸は0.25〜0.45mgCl-1で季節変動した。鉛直方向の濃度の変化は8月と10月に見られた。8月には表層(0〜15m)で低濃度(0.27mgCl-1)、中層以深で高濃度(0.37mgCl-1)を示し、10月には表層で高濃度(0.43mgCl-1)、中層以深で約0.37mgCl-1を示した。他の時期は表層から低層までほぼ一定濃度を示した。フルボ酸が付加される要因としては、河川からの流入が考えられ、減少する要因としては光分解が考えられた。湖水のDOC濃度は1.0〜1.80mgCl-1を示し、河川水起源のフルボ酸は湖水中全溶存有機炭素の30%〜40%を占めると考えられる。