◆生活文化・       バイオディーゼル燃料の新合成法の開発
 エネルギー◆ 

 強アルカリ触媒法によるバイオディーゼル燃料(BDF)の製造において,BDF や廃グリセリン相にアルカリが混入した廃液が生成するためその処理が課題となっている。そこで,水を用いずに BDF を生成するため生体触媒としてリパーゼ酵素を用い,メチル化剤に炭酸ジメチルを用いる新合成法を開発した。この合成法は,穏和な反応条件で長期にわたって安定的に進行し,安全に操作可能で廃液も皆無となる。今後,酵素のコストを下げることができれば,実用可能なグリーンプロセスを構築できる。 

【H1008】           油脂のリパーゼ触媒トランスエステル化による
         新規バイオディーゼル燃料合成法の開発

 (山口大VBL・山口大院理工1・山口大院医学系2・宇部興産(株)有機化学研3)○ 岑 友里恵・
  山浦 伸一1・前原 祐輔1・西田 晶子2・福永 公寿1・福田 昌平3
 [連絡先:岑 友里恵,電話:0836-85-9263]

 化石燃料の供給にも翳りがみられ,原油価格の著しい高騰が続いている.石油資源に全面的に依存している現代社会への影響は大きく,今までにも増して石油代替燃料の開発が切望されている.
 
現在,トリグリセリドのグリセリンをメチル化剤のメタノールで置き換えることによって得られる代替燃料バイオディーゼル燃料(BDF)の製造において,強アルカリ触媒法の欠点であるBDFや廃グリセリン相へのアルカリ混入による廃液処理が課題となっている.この問題は化学触媒の強アルカリが水やグリセリンに溶解することに起因するもので,水をまったく使用せずに,固体化した生体触媒(固定化酵素)を使うことにより解決できる.
 本研究では生体触媒として,水が無いと油脂とアルコールとのエステル交換反応を触媒できるリパーゼ(EC 3.1.1.3)を,メチル化剤としてはメタノールの代わりに油脂と均一に溶解する炭酸ジメチル(DMC)を用いた.米油トリグリセリドとDMCとのトランスメチル化反応において,多孔性ポリプロピレン粉末に固定化したリパーゼを用いると基質阻害もなく,BDF(= FAMEs:脂肪酸メチルエステル)合成活性の半減期が30,000 h(418 Runサイクル,1270日,3.5年)と非常に長期にわたって活性が発現された.
 
DMCを用いたリパーゼ触媒BDFの合成には次のような利点がある.
(1)グリセリンを排出しない.
(2)同時に生成する少量のグリセリン誘
 導体(酸素の多い化合物)はFAMEs相
 
と分離してくるので容易に除去でき,
 それのみで燃料として用いることがで
 きる.
(3)FAMEs相にはモノ,ジグリセリドはな
 く,FAMEs以外に少量のグリセリンカ
 ーボネートの脂肪酸エステルが含まれ
 るが,FAMEs相に溶解しているためBDF
 として燃焼できる.
(4)FAMEs相に残存する水は過剰のDMCと
 ともに共沸除去できる.
(5)低温反応であるためエネルギーコス
 トがかからず,FAMEs相中の抗酸化剤
 であるトコフェロールの量は減少しな
 い.
 以上,生体触媒のリパーゼを用いる方法は穏和な反応条件で長期にわたって安定的に進行し,かつ,誰でも安全に操作でき,廃液も皆無であるので,酵素のコストさえ下げる努力をすれば,実用化可能なグリーンプロセスとなり得る.