◆環境・防災◆   酵素活性により南極土壌中の微生物を調べる
 南極は低温で乾燥しており,紫外線の強度が強い。そのような過酷な環境下の微生物を検出するためのオールマイティな方法は知られていない。本研究ではすべての生物が持っている酵素ホスファターゼに着目し,その働きを調べることにより南極土壌中の微生物を評価する方法について検討した。南極土壌でもペンギンの営巣地近くでは高いホスファターゼ活性が検出され,活発な微生物活動が示唆された。さらに蛍光顕微鏡を用いて酵素エステラーゼを評価することにより土壌中の微生物の画像化も可能である。このような方法は,将来の火星の生命探査などにも応用可能であろう。 

【J1019】    酵素活性をプローブとした南極土壌中の微生物活動評価

     (横浜国大院工・玉川大農1・JAMSTEC2・安田女子大3・IAS4)○小林憲正・佐藤修司・藤崎健太・
     金子竹男・伊藤有希・吉村義隆1・高野淑識2・小川麻里3・河崎行繁4・斉藤威5
     [連絡者:小林憲正、電話:045-339-3938]

 近年、熱水中、地殻深部、深海底などの極限的な環境から盛んな生命活動が報告され、地球生命圏の知見が広がりつつある。また、火星探査においても、水の探査が一段落し、次は有機物および生命探査の段階に入ろうとしている。しかし、生命活動を評価する手法は定まっていない。我々は微生物活動のバイオマーカーとして酵素活性に着目した。なかでも、ホスファターゼは、生体に必須なリン酸エステルを加水分解する酵素で、地球生物にとって普遍的である。
 本研究では極限環境生命圏活動を評価する方法としてホスファターゼ活性測定法に注目し、これを南極大陸昭和基地周辺の土壌に適用した。南極の表土は、低温・乾燥・高紫外線という極限的環境であり、火星探査のモデルになるとも考えられる。
 土壌試料に基質溶液を加え、吸光度変化を測定することにより活性値を求めた。ペンギンの営巣地近くの土壌からは横浜国大の土壌とほぼ同じレベルの活性が検出され、ペンギンの排泄物などにより南極土壌中でも活発な微生物活動が維持されていることがわかった。一方、ペンギンやヒトが近づかない地区の土壌の活性値は極めて低い値を示した。土壌から抽出した酵素の性質を調べると、南極土壌の酵素は、横浜土壌の酵素よりも低温で働くこと、逆に海底熱水噴出孔の試料からとった酵素は高温で働くことがわかり、環境により酵素の性質が異なることもわかった。
 さらに、微生物が細胞内に必ずもつ酵素エステラーゼに着目し、エステラーゼにより分解する基質を用いて、顕微蛍光法での南極環境中の微生物の検出を検討した。顕微蛍光法では、細胞中に存在するエステラーゼにより分解して蛍光を発する色素(CFDA-AM)と核酸に結合して蛍光を発する色素(PI)により二重染色する手法により、南極土壌や氷中の微生物の生死の可視化が可能であることがわかった。これらの酵素活性を用いた手法により、様々な極限環境中の微生物活動を評価していく予定である。