◆新素材・      氷を使って光ファイバー型の分析セルを作る
 先端技術◆

 溶液を低屈折率の細管に満たし,ここに光を導入すると,この光が溶液中を伝送する光導波路ができあがる。光は溶液に溶けている物質の情報を読み出すことができるので,この細管は光ファイバー型の分析セルになる。一般に,水溶液を用いた場合,水よりも屈折率の低い素材は限られているので,光ファイバー型の分析セルを作るのは困難となる。そこで,ここでは、低屈折率の素材として氷に着目した。氷点下に温度制御した銅板上に氷のトンネルを造り,塩を溶解した水溶液を注入して,レーザー光を導入したところ,光導波現象が確認できた。極めて斬新な分析セルとして期待される。 

【D1010】            光導波路特性を持つ氷マイクロチップ

   (東工大院理工) ○杉谷浩平・岡田哲男
[連絡者:岡田哲男,電話:03-5734-2612]

 コア(芯)に高屈折率の素材、クラッド(外壁)に低屈折率の素材を用いた管は、全反射現象によってコア中に光を伝送させる性質、すなわち光ファイバーのような光導波路特性を持つ。水より屈折率が低い素材で管を作成し、その中を水溶液で満たすと、それは水溶液をコアとした光導波路となり、水溶液中に光が伝送されるようになる。そのとき、水溶液に光を吸収するような物質を溶解させておくと、光はその物質に応答し、その様子は検出器で読み出すことができる。つまりその管は水溶液を光で分析するためのセル(入れ物)となる。これは光ファイバー型キャピラリーセルと呼ばれ、分析において二つの利点を持つ。一つは長い光路を取れることで分析の感度が上昇すること、もう一つは流体を流すことで、時間を追った分析ができることである。
 水溶液の分析に利用できる光ファイバー型キャピラリーセルを作成するには、水より屈折率が低い素材を使わなければならないが、実際に利用されている固体素材は限られてしまう。ところが、水を凍らせた氷は身近にある水より屈折率が低い素材である。このことに着目し、本研究では氷をセルの新しい素材として利用することを検討した。つまり氷のトンネルを作り、そこに水溶液を満たして、その水溶液の中に光を伝送させようという試みである
図 氷の光導波路を用いた水溶液の吸光分析のイメージ
。実験では氷点下に温度制御した銅板上に氷を張り、途中で金属線を置いてさらに成長させ、大きさが充分なところで金属線を引き抜いて氷のトンネルを作成した。その中に凍らないように塩を溶解した水溶液を注入し、レーザー光などがどの程度伝送されるか検出した。氷内壁での光散乱のため長距離を伝送することはできないものの、導波特性をもつ氷と水の系を作成することができた。またこれを用いて流れを持った系を分析する可能性も見出している。今後、導波特性の向上と作成の効率化が図り、新たな分析手法としての確立を目指している。