◆医療・生命◆  簡便で高感度な血中の動脈硬化性疾患の危険因子の分析
 近年,動脈硬化性疾患の新たな危険因子として含硫アミノ酸であるホモシステインが注目されている。ホモシステインは生体内で葉酸の代謝サイクルと密接に関係しており,代謝サイクルに含まれる一部の酵素などの遺伝子変異により血中の濃度が上昇し,動脈硬化性疾患の危険性が高まるとの報告がある。著者らはヒト血漿中の葉酸代謝サイクル構成成分をLC-MS法により簡便かつ高感度に定量する方法を開発した。この結果を基にホモシステインと葉酸関連化合物の生体濃度の関連性を見いだせるものと期待される。 

【P3095】           ヒト血漿中の葉酸関連化合物のLC-MS分析

      (長崎大院医歯薬1・長崎国際大薬2)○一瀬沙織1,2・高井伸彦2・
      池田理恵1・和田光弘1・大庭義史2・中島憲一郎1
     [連絡者:中島憲一郎,電話:095-819-2450]

 生体内では様々な物質が複雑な経路で代謝されて生命活動が営まれているが,健康でない状態では代謝が乱れ,生じる物質(代謝物)の量や種類が変化する。すなわち,代謝物の変化は生体の異常を示し,それを解析すれば原因の解明や治療法の開発に結びつくと考えられる。そのため,近年では代謝物を網羅的に検出して解析する「メタボノミクス」による研究が活発に行われてきている。メタボノミクスでは,個々の生体試料から代謝物を検出したデータをパターン化して代謝プロファイルとし,それらを比較することで生体の異常により変化する代謝物を特定することが可能である。その結果をもとに,生体の異常に関する指標物質(バイオマーカー)の探索や予知・診断への応用および変化が見られた代謝物の代謝経路を考慮することによる原因解明や予防・治療法開発への貢献などが期待される。
 
我々はこれまで,メタボノミクスの有用性を示す基礎検討として,正常血圧ラット(WKY)を対照として高血圧自然発症ラット(SHR)および脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)について,代謝物の検出に核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いたメタボノミクスを行い本態性高血圧症に特徴的な代謝変化に関する種々の知見を得てきた。本研究では,脳卒中に特徴的な代謝変化を明らかにする目的で,SHRを対照としてSHRSPについて尿のNMR-メタボノミクスにより代謝プロファイルを比較検討した。その結果,SHR群とSHRSP群は明瞭に識別されることがわかり,詳細な解析により識別に寄与する主な成分を特定することができた。