◆医療・生命◆      血管新生に関わる因子の高感度モニタリング
 血管新生は,既存の血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する生理的現象であり,分子生物学分野で注目されている。血管新生に関わる因子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は糖タンパク質であり,がん細胞の増殖や転移ばかりでなく糖尿病性網膜症や慢性関節リウマチなどに深く関わっている。そこで今回,このVEGFを簡便,迅速かつ長時間モニタリングする蛍光分子プローブを開発した。本プローブは,単独では蛍光が微弱であるが,VEGFと特異的に反応すると強い蛍光を発するため,手軽にVEGFを高感度測定することができた。 

【E3017】       血管内皮細胞増殖因子(VEGF)検出用蛍光分子プローブの創製

          (産総研バイオニクス) ○鈴木祥夫・横山憲二
       [連絡者:鈴木祥夫、電話:042-637-5379]


 血管新生は、成人の正常な人体にみられる生理的な現象や、特定の疾患にみられる「元々ある血管から新しい血管が形成されるプロセス」である。血管新生は、癌細胞の増殖と転移に密接に関わっていることから、近年、その分子生物学的研究が盛んに行われている。血管新生に関与する因子として、エフリン、アンジオポエチン、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などが知られている。このうちVEGFは、その中心に位置する糖タンパク質であり、癌の増殖・転移のみならず増殖性糖尿病性網膜症、慢性リウマチなどにも深く関わっていることが知られている。このため、VEGFに関する研究成果を医療や健康管理の現場で役立てるためには、VEGFを、簡便,迅速かつ長時間にわたりモニタリングする技術を確立しておくことが重要となってくる。
 本研究では、蛍光発色団とVEGF結合部位としてのペプチド鎖から構成される蛍光分子プローブの開発に成功した。分子プローブの特徴として、1) プローブ単独の蛍光は微弱であるが、水溶液中でプローブとVEGFを混ぜると、瞬時に蛍光強度が大幅に増加する、2) VEGFに対する選択性が高いため、妨害物質の影響を受けない、3) 市販の分析装置で簡便に測定を行うことが出来る、などが挙げられる。さらに、開発した分子プローブを、ガラス基板上に固定化した状態で、VEGFとの相互作用をモニタリングしたところ、応答が確認されたことから、デバイスへの応用も期待される。このような試薬を用いることによって、手軽にかつ高感度でVEGFの分析が可能となる。