◆生活文化・     お風呂の水の安全性を化学的に評価
 エネルギー◆ 

 風呂の浴槽水(浴湯)は、基本的には体内に入ることはないが,洗顔やシャワー時に経口的に入る場合や外傷等の傷口から入る場合が考えられる。最近,浴湯のエアロゾルの吸入に起因したレジオネラ症が問題となったように,浴湯の安全性に対する関心が高まっている。そこで,今回,浴湯の化学成分濃度と細菌数を評価した。浴湯は毎日入浴・追い炊きしている1世帯の浴槽から経時的に採取した。その結果,化学成分濃度に大きな上昇は見られなかったが,細菌数は数日後に高い値が観測され,基準範囲内ではあったものの,浴槽環境に細菌が生息していることが示唆された。 

【P3053】          家庭浴湯の無機成分変化と経時・入浴の影響

    (順大医1・国立科学院2)○小林 淳1,2・松川岳久1・篠原厚子1・千葉百子1・
     寺田 宙2・
杉山英男2
       [連絡者:小林 淳,電話:03-5802-1047,E-mail:jkobaya@juntendo.ac.jp]

 風呂の浴槽水(以下、浴湯)は、入浴により身体を暖めたり、入浴剤成分の吸収を助けたり、また洗い場でシャンプーや石鹸を体表面から洗い流すのに利用されるのみであって、基本的に口に入れるものではない。しかしながら洗顔やシャワーを浴びることにより、浴湯そのものが経口的に、あるいは微小な液滴(エアロゾル)が経気道的に吸入される。また外傷がある場合には傷口から体内に入り込むということがまったくないとは言い切れない。従って本来飲用摂取を目的とするものではないが、その安全性の確保に留意すべきであると考えられる。最近日本では集団浴場において、浴湯のエアロゾルを吸入したと思われる来客がレジオネラ症にかかる例や温泉から発生した硫化水素ガスを吸入したことによる窒息例の報告がある。
 今回、私達は身近な家庭の風呂に着目した。上記の様に浴湯は、毒物等の摂取や感染症の原因になり得ると思われ、もともとは厳密な基準のある水道水を沸かしたものだが、入浴や追い炊き,入浴剤の添加によりその成分が変化し、体に有害となることもあると考えたからである。測定した項目は1) 有害元素や入浴剤の成分を含む無機成分,陰イオンと2) 細菌繁殖をモニターするための一般細菌・大腸菌と3) 有機物汚染度合いを把握するためのCOD(化学的酸素要求量)で、主に浴湯の無機成分変化と細菌繁殖という観点で研究を行なった。
 予試験の結果の一部を以下に示す。今回用いたお湯は千葉県Y市内の団地一軒からであり、毎日入浴・追い炊きしている浴槽から経時的に採取したものである。a) 時間経過とともにカリウムや銅濃度の上昇が見られたが、これは入浴によるヒト由来と思われる。一方、マンガンや
リン,セレンなどの濃度は減少し、これは少なくとも一部は細菌の発育に使われた可能性が高いと考えている。b) 細菌数は実験を通じて基準範囲を越えることはなかったが、初め検出され、それが時間経過とともに一旦下がってからまた増加した。これは風呂場という使用頻度の低い水道管や蛇口に細菌の生息場所があること、また浴槽内では湯沸器内で細菌が生息していることを推測させる結果である。今回の結果だけでは検出された細菌が有害かどうかは不明で、また他の家庭の風呂(水道水,湯沸器の異なる)について調べることが今後の課題である。