◆環境・防災◆   安価なマグネタイト磁性体を用いる有害ヒ素の新しい除去技術
 世界各地においてヒ素による飲料水汚染が問題になっており,ヒ素除去技術が求められている。 本法では,安価なマグネタイト磁性体が,5価のヒ素だけでなく,より有害な3価のヒ素に対しても吸着能を示すことに着目した。 マグネタイトの製造過程において,界面活性剤の分子集合体を鋳型にすることで,高比表面積を持ち,ヒ素の飽和吸着量が 1.0 mmol g-1 に達する高性能なヒ素除去剤の開発に成功した。本マグネタイトはバイオマスであるキトサンとハイブリッド化することで,様々な粒径に調製してヒ素の吸着・脱着による再利用が可能であり,有害ヒ素除去の新技術として期待できる。

【F3009】    多孔性マグネタイトの調製とヒ素吸着除去への応用

      (宮崎大院工)○日高勇介・大栄 薫・大島達也・馬場由成*
      [連絡者:馬場由成, TEL:0985-58-7307 ]

 ヒ素は急性・慢性毒性が強く発癌性も認められることから、WHOの飲料水質ガイドライン値は0.01 g/l と厳しい値が定められている。現在、インドや中国、バングラディシュなどのアジア諸国のみならず、東欧・北欧諸国、中南米諸国などの世界的各地でヒ素による飲料水汚染が問題となっており、汚染源に応じた適切なヒ素除去技術の開発が急務である。ヒ素の除去技術には鉄塩やアルミニウム塩による凝集沈殿法、半透膜を用いる逆浸透膜法、吸着材表面に目的物質を補足する吸着法などが挙げられる。しかし凝集沈殿法はヒ素を含む大量のスラッジが発生し、逆浸透膜法は膜のコストおよび寿命の問題がある。また活性アルミナ、二酸化マンガンによる吸着法は毒性の高い3価ヒ素は吸着せず、5価ヒ素しか吸着しない。また、希土類をベースにした吸着材は3価ヒ素も吸着するがコスト的な問題がある。

本研究では、安価で生体適合性を有する磁性体であるマグネタイトを吸着材とするヒ素除去技術の開発を目指している。我々はこれまでにマグネタイトが5価と3価のヒ素ともに吸着し、吸着材はアルカリ溶液によって再生され、再利用が可能であることを見出した。そこでマグネタイトの吸着性能を向上させるために界面活性剤の分子集合体を鋳型としたマグネタイトの構造を形成し、その後、鋳型を除去することによって高比表面積マグネタイトを調製した。これによりヒ素の飽和吸着量は5 価ヒ素が0.7 mmol g-1、3価ヒ素では1.0 mmol g-1まで向上した。また我々は、エビとカニ殻から得られる海洋性バイオマスのキトサンとマグネタイトをハイブリット化した真球状のヒ素吸着材を開発した。この吸着材はW/Oエマルション間の浸透圧差を利用した方法であり、キトサン濃度、および分散剤濃度の条件をコントロールすることによって数十μmから1mm程度の粒径の粒子が調製できることを見出している。

このようにマグネタイトは5価および3価ヒ素の吸着・脱着操作により再利用が可能であることから、環境に配慮した循環型プロセスの実現が期待される。