◆生活文化・     放射光を利用してかりんとうの劣化メカニズムを探る
 エネルギー◆ 

 かりんとうの劣化(酸化)は,日本農林規格に従い遊離脂肪酸量の指標である酸価とペルオキシド量を示す過酸化物価で評価される。しかし,かりんとうの劣化は原料や製造条件等に影響されるため劣化メカニズムの解明が望まれている。油脂成分で湿るかりんとう粉末を中真空下で保持し,種々の条件で劣化させたかりんとうを放射光軟X線分光法で測定した。長時間蛍光灯照射した条件では,劣化要因であるペルオキシドとカルボニル基の増大を確認できた。またスペクトル解析から劣化メカニズムの解明が可能となった。放射光軟X線分光法は,今後の新しい食品分析手法として期待できる。

【P1006】    放射光軟X線吸収分光法によるかりんとうの劣化反応追跡

      (兵庫県立大院工,常盤堂製菓1)○村松康司,野澤治郎,鎌本啓志,天野治1
        
[連絡者:村松康司,電話: 079-267-4929]

 我々は放射光軟X線分光法を軽元素機能材料の高精度状態分析技術として確立するため,様々な実材料の軟X線状態分析を行っている。今回は本法の食品分析応用をねらい,本学が位置する播州地域の伝統菓子“かりんとう”の劣化反応を追跡した。

 通常,かりんとうの品質は遊離脂肪酸量の指標である酸価とペルオキシド量を示す過酸化物価で評価され,日本農林規格(JAS)の基準分析法に従って化学分析される。しかし,かりんとうの劣化(酸化)は,原料や製造条件等に影響され,そのメカニズムは複雑で不明な点が多い。一方,放射光軟X線分光法は酸素の状態分析に有効であるものの,一般に高真空下での実験が必須であるために食品のような真空悪化を起しやすい試料の分析は敬遠されてきた。そこで,我々は中真空下(〜10-4 Pa)の実験ができる米国の放射光施設(ALS)を利用し,かつ油脂成分で湿るかりんとう粉末試料を真空下で安定に保持できることを確認して,種々の条件で劣化させたかりんとうの軟X線吸収測定を行った。その結果,室内の蛍光灯で長期間光照射したかりんとうの軟X線吸収スペクトルには,劣化の要因であるペルオキシドとカルボニル基の生成を示すπ*ピークの強度増大が観測された。このスペクトルを詳細に解析することにより,劣化反応メカニズムを解明できる。以上より,放射光軟X線分光法は食品の劣化分析に適用できることが確認でき,今後新しい食品分析手法の一つになると期待される。