◆環境・防災◆     水圏微生物に対するナノ粒子の環境毒性を評価する
 ナノテクノロジーが次世代の技術として注目されているが,その環境に与える安全性の基準はまだ確立されていない。本研究では,ナノ粒子が環境へ放出された場合を想定して,水圏微生物であるクロレラやミジンコに対するさまざまなナノ粒子の毒性評価を行った。その結果,ZnOやCuOなどの金属ナノ粒子は,ミジンコに対して,それぞれの金属イオンの1/10程度の急性毒性を示すこと,またシリカナノ粒子では,金属ナノ粒子ほどの毒性はないものの,微細藻類クロレラに対し,高濃度域において,粒径依存的毒性があることが明らかにされた。

【H1021】       水圏生物におけるナノ粒子の毒性評価と取り込み機構の解析

         (東京薬科大学・生命科学研究科)井上悠一、青木元秀、藤原祺多夫
          [連絡者:藤原祺多夫,電話:0426-76-6768]

 今日ナノ粒子は、様々な材料(塗料、建材、繊維、触媒、電子回路など)、薬品、農薬等に使用され、その優れた特性が利用されるようになってきた。一方ディーゼル微粒子などの環境に放出されるナノ粒子は、アレルゲン、発癌誘起性などの点から問題になっている。人工的なナノ粒子の使用および環境への放出をふまえて、とくにヒト組織へのナノ粒子の毒性評価が進められている。本研究では、従来あまり研究されてこなかった水圏微生物に対するナノ粒子の毒性を明らかにすることを目的とした。今回は食物連鎖の初期段階の淡水性微生物として、微細藻類であるクロレラ、ミジンコ(OECDの化学物質促成に対する指標生物となっている)を取り上げ、その毒性を調べた。
 金属ナノ粒子としては、ZnO(27.2, 95.3 nm), CuO(20.8, 107 nm), Al2O3(22.2, 47.7 nm)またシリカナノ粒子としては、5, 26, 78 nmの球形のものについて調べた。ZnO, CuO のナノ粒子では、ミジンコの半数遊泳阻止濃度(EC50)は、10〜20 ppm、一方金属イオン(Zn2+, Cu2+)では1〜2 ppmとほぼイオン状態の1/10の急性毒性が表れた。ナノ粒子からの溶出実験からは、金属イオンの溶出は考えられないが、ミジンコの消化管での溶出は考えられる。酸化アルミニウム、シリカナノ粒子は、こうした低濃度での毒性は見られないが、シリカナノ粒子では,微細藻類クロレラに対して、高濃度で粒径依存的毒性が現れた(半数増殖阻止濃度: 5 nm = 0.8%, 26 nm = 7.1%, 78 nm = 9.1%)。こうした濃度のシリカナノ粒子を曝露したクロレラの透過顕微鏡写真を下に示すが、シリカの溶出は考えられないので、微粒子自体が、水圏微生物に毒性作用を持つことは、明らかである。

日本女子大学 佐藤真美子撮影(右:正常細胞、左:5 nm シリカ曝露細胞、矢印で示した不定形器官が現れる。)