◆新素材・      特性を活かすカーボンナノチューブの分散技術
 先端技術◆

 近年注目を集めているカーボンナノチューブ(CNTs)は,通常は凝集体として存在しているが,CNTsの特性を最大限に活かすには,凝集しているCNTsを一本ずつにほぐしておく必要がある。本研究では,CNTs凝集体の表面上に両性イオン分子を自己組織化させることにより,CNTが単独かつ安定に分散したCNT分散液が得られることを明らかにした。また,この分散液がさまざまな技術の中で利用されることを想定して,CNT分散液が廃液となった場合に,人体や環境への負荷を低減させるために,この分散液からCNTsを粉末として効率よく回収し,再利用できる処理技術の開発にも成功した。

【E1022】        カーボンナノチューブの分散技術と廃液処理

(北大院環境・JST1)○曽根弘昭・平木寿明1・古月文志
[連絡者:古月文志,電話:077-706-2272]

 発見されて以来,その興味深い構造と特性から,多くの注目を集めているカーボンナノチューブ(CNTs)は通常,凝集体として存在する。CNTsの凝集は,その表面の原子が配位的に不飽和であるため,隣接同士に配位して,ファンデルワールス力による安定化エネルギーを獲得することによって起きる。CNTsナノ構造体としての性質・特性を最大限に発揮させるためには,まず,互いに凝集しているCNTsの固まりを1本ずつにほぐす必要がある。そこで,1分子中にプラス電荷とマイナス電荷を持つ両性イオン分子を分散剤として用い,CNTs凝集体の分散処理を試みたところ,CNTsが1本ずつに独立することが確認された。この分散機構は,両性イオンがCNTs凝集体の表面上で自己組織化し,両性イオン分子膜(SAZM)を形成することにある。CNTs凝集体を覆うSAZMは,双極子間の静電的引力によって,凝集体からCNTを引きはがし,はがされた部分はまた,SAZMによって覆われる。この繰り返しによって,CNTs凝集体は完全に分散され,CNTは単独で存在できる。この分散された溶液は,放置,更には希釈しても,凝集もしくは沈殿することがない。
 しかし,このナノ粒子溶液は人体に必ずしも悪影響を与えないとは限らない。それ故,廃液処理の問題が将来的に発生することが予測できるが,現在の法律では規制がなされていない。もし,この廃液を無害化し,CNTsを回収・再利用する事が可能ならば,人体影響および環境負荷のみならず,コストの面でも非常に大きな利点になる。そこで,この分散溶液からCNTsの回収を試みた。具体的には,古典的な鉄共沈法を用いた。分散廃液容量に対して5%の塩化鉄(III)飽和溶液を加えた後,炭酸ナトリウム溶液を加え,弱アルカリ性にて30分の煮沸後,放冷・静置して沈殿を得た。この上澄みを傾斜法で除き,メンブレンフィルターで沈殿を回収しつつ,塩酸とメタノールで洗浄することにより,CNTsを粉末として回収することを可能とした。