◆新素材・      毛細管に凝着したダイオキシンを一気に高感度に定量
 先端技術◆

 ダイオキシンはその強い毒性のため,高感度かつ高選択的な分析手法の開発が必要である。しかし環境中では極微量でかつ性質の類似した化合物が多数存在するため測定は困難である。本研究では,毛細管の先端に凝着した試料を,パルスレーザーを照射することで瞬間的に蒸発させて高効率で質量分析装置に導入する新しい手法を開発し,ガスクロマトグラフィー/多光子イオン化質量分析法における測定の高感度化に成功した。従来のキャピラリー導入法と比較して1万倍の感度上昇が見込めるため,環境中や血液中などダイオキシンの超高感度分析に期待が持てる。

【F3028】   レーザー蒸発法による試料濃縮効果を用いたダイオキシン類の高感度分析

      (九大院工1・九大未来化セ2)○迫田裕司1・内村智博1,2・今坂藤太郎1,2
      [連絡者:今坂藤太郎,電話:092-802-2883]

 環境汚染物質の一つであるダイオキシン類は、有機塩素化合物の製造工程での副産物として、また廃棄物等の燃焼過程で非意図的に生成する化合物である。ダイオキシン類は毒性が非常に強く、長期にわたるヒトや野生動物などへの影響が懸念されている。また、環境中に含まれるダイオキシン類の濃度は極めて低く、同族体・異性体が多数存在するため、高感度かつ高選択的な分析手法が必要である。

 我々の研究グループでは、高感度、高選択的な測定が可能であるガスクロマトグラフィー/多光子イオン化/質量分析法を基盤としたダイオキシン類の新規分析手法の開発を行っている。これは、ガスクロマトグラフを用いて試料を各成分に分離した後、パルスレーザーによってイオン化した試料分子を質量数別に検出する分析法である。
 一般的に、ガスクロマトグラフによって分離された試料は、キャピラリーを用いて質量分析装置内に導入するが、連続的に導入されるため試料の利用効率は極めて低い。一方、パルスノズルを用いて試料を間欠的に導入する場合、試料の利用効率は高くなるが、耐久性や高い技術が要求されるなどの問題がある。
 そこで本研究では、キャピラリー先端に凝着した試料を、パルスレーザーを照射することで瞬間的に蒸発させ、質量分析装置に導入する新手法を開発した。その結果、試料を10マイクロ秒という短時間のパルスとして導入することに成功した。本手法は、キャピラリーを用いた簡易的なパルス試料導入法であり、従来のキャピラリー導入法と比較して104倍の感度向上が見込め、環境中や血液中の極微量ダイオキシン類の超高感度分析に有用であると考えられる。