◆新素材・      微小流路での熱対流を利用したマイクロミキサー
 先端技術◆

 近年,マイクロチップなどマイクロ流体デバイスを利用した化学反応や分離・分析法の研究が注目されている。しかし,マイクロチャネル内での液体の流れは,その粘性による著しい抵抗を受けることと,乱れのない規則的な層流になりやすいため,液体の十分な攪拌や混合は困難となっている。本研究では,マイクロ流路内に電気伝導性の高い液体を導入し,これに交流電場を加えることで,電極間の液体が重力に逆らう方向に流れる現象を見出し,熱対流による効率的な攪拌・混合を実現した。このマイクロミキサーはコスト面でも優れ,特にバイオメディカル領域での応用が期待される。

【I2002】        浮力で動作するマイクロミキサー

(慶大理工)○平原修三、鶴田知幸、松本佳宣、三木則尚、南谷晴之
[連絡者:平原修三 電話:045-563-1141]

 髪の毛ほどの太さの液体を流すμチャネルを使って化学反応や分析を行うμ流体デバイスは、省試料・省資源、化学物質拡散の防止、小サイズ化による反応促進などの利点があり、特にバイオ実験やメディカル検査への応用が期待されている。しかし、まだ実用例は非常に少ない。その理由の1つは、μチャネル内での液体が粘性のサイズ効果により、例えばストロー中に水飴を通すような抵抗を受けるだけでなく、液体の混合・攪拌が難しい状態(層流)になるためである。ジグザグ状のチャネルや、チャネル壁に多くの突起物を設ける方法も試みられているが、凹み部分での液体の滞留(淀み点)による混合不均一や生成物の付着、目詰まりなど、課題が多い。
 筆者らは、一対の電極を設置したシンプルな形状のμチャネル内に、生理食塩水や高イオン濃度に調製したpH緩衝液などの電気抵抗が比較的低い液体を導入して交流電圧を印加すると、電極間の液体が重力に逆らう方向へ流れる現象を発見した。これは、レイリー数が1708以下の条件(μ流体は必ずこの範囲内)では熱対流が起こらないという熱流体力学での通説を覆す結果である。また、電極面が垂直方向となるようにデバイスを立てて使用すると、さらに10倍以上流れが速くなる。既にこの現象を応用したマイクロポンプを発表しているが、今回は、μ流体を混合・攪拌するためのマイクロミキサー(図)を報告する。このμ流体デバイスは構造がシンプルで扱いやすく、低コスト材料と一般的な製造プロセスを用いるので作成も容易である。また0.01 S/m以上の導電率(生理食塩水は1.6 S/m)の液体で効率よく働くことから、特に生体物質の取り扱いに適し、バイオやメディカル分野での広い応用が期待できる。