◆医療・生命◆ バイオ分析を目指した赤 近赤外に発光波長をもつ新規高輝度色素の開発

 近年,可視光よりも長波長領域に蛍光を持つ色素は,安全で簡易・高感度なバイオ分析を可能とし,医療や診断への応用が期待されている。著者らは有機色素分子を系統的に設計し,この領域に蛍光を発する世界最高水準の新規蛍光色素骨格の開発に成功した。本蛍光色素は鋭い発光スペクトルバンドを示すので,単色で他の色が混じることなく鮮やかで,極めて明るい発光を示した。また1年間溶媒に溶かした状態で放置しても蛍光がほとんど変化しない。これにより従来困難とされてきた長時間にわたる高感度バイオ分析や多種の物質を同時に検出するマルチカラー分析の実現が期待される。

【Y1062】  バイオ分析を目的とした700nmを超える新規高輝度近赤外蛍光色素の開発

        (慶大理工,1 KAST ,2 JST-CREST) ○中村有希,梅澤啓太郎,牧野弘,
         チッテリオ ダニエル,鈴木孝治1,2
           
[連絡者:鈴木孝治、電話:045-566-1568 ]

  現在,有機蛍光色素は有機ELなどのディスプレイ分野から,細胞染色やDNA染色などのバイオケミストリー分野まで,様々な分野で注目を集めている。特に近年,可視光よりも長波長な近赤外領域(波長650-900 nm)に蛍光をもつ蛍光色素は,生体深部における安全で簡易かつ高感度なバイオ分析を可能にするとして,医療や診断への貢献が期待されている。実用的かつ有益な蛍光色素の条件として,鮮やかな色彩、明るく発光,高い耐久性を有することがあげられる。また,様々な色(蛍光波長)を容易に実現することができる,優れた色素が求められている。
 本研究では,有機色素分子を系統的に設計し,赤〜近赤外領域に蛍光を有する世界最高水準の光学特性を持つ新規蛍光色素骨格を開発した。具体的には,優れた光学特性をもつボロンジピロメテン色素を母骨格として,π共役系の拡張や,電子供与基・電子吸引基の導入により,蛍光波長のマルチカラー化及び長波長化を検討した。その結果得られた本蛍光色素は,1)鋭いスペクトルバンドを持つため,単色で他の色が混ざることなく色彩が鮮やかある。また,2)効率の良い発光が得られるため,その蛍光は非常に明るい。更に,3)1年間,溶媒に溶かした状態で放置しても蛍光がほとんど減少しないほど,光耐久性に優れている。また,4)本色素骨格を母体として様々な蛍光波長の色素を容易に合成することが可能である。よって従来困難とされてきた,長時間における高感度なバイオ分析や,多種の物質を同時に検出するマルチカラー分析の実現に貢献できると考えられる。  

図 開発した蛍光色素