◆医療・生命◆ 毛髪で病気を診断する

 現在病気の診断や治療のために臨床検査で用いられている血液や尿と比較し,毛髪は,採取,保存・運搬が簡便であり,衛生面でも優れた試料といえる。また,他の生体試料よりも疾患や薬物の長期間の使用情報を有しているという特徴がある。本研究で,超高速液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計を用いて,病態モデル動物ラットの体毛中の疾患マーカーの探索を行ったところ,脳卒中や高血圧の疾患マーカーとなる成分の分析に成功した。本法は,毛髪を用いた生活習慣病や様々な疾患の画期的な診断法として期待される。

【D2004】  メタボノミクス的手法を用いた毛髪中に含まれるバイオマーカーの探索

        (静岡県大薬) ○野田 巧・稲垣真輔・福島 健・閔 俊哲・豊岡利正
         [連絡者:豊岡利正, 電話:054-264-5656]

 病気の診断や治療のために臨床検査が行われる。現在、臨床検査に用いられる試料は尿や血液に限定される場合がほとんどである。しかし、現在の方法では衛生面上の問題や採取場所・採取者が限定されること、また血液採取に伴う苦痛などの問題点を被験者に負担させてしまっている。これらのことを考慮すると、その代替となる検査材料およびそれを用いた分析法の開発が強く求められる。我々は血液や尿の代替の生体試料として毛髪を利用することでこれらの問題点を解決しようと考えた。毛髪は試料採取や保存、持ち運びが簡便であり、さらには非常に衛生的な試料である。加えて、他の生体試料よりも長期にさかのぼる疾患および医薬品の使用情報などを有していることから、従来の臨床検査の限界を補うことが可能な生体試料として注目される。そこで、毛髪を検査材料とする臨床検査の実現を目指し、毛髪中に含まれる疾患マーカーの探索を試みた。本研究では、遺伝的高血圧ラット、脳卒中易発症ラットおよびそれらの対照ラットから採取した体毛を用いて行った。採取した体毛を洗浄し、抽出操作の後に超高速液体クロマトグラフィー−飛行時間型質量分析計(UPLC-TOF-MS)による測定を行った。得られたデータに多変量解析の一つである主成分分析による解析を行った。その結果、脳卒中易発症群に特異的に多く存在する成分の発見に成功した。この成分は週齢を重ねるごとに対照群との差が劇的に増加しており、脳卒中の疾患マーカーと判断された。また、この成分は遺伝的高血圧群にも対照群と比較して多く存在しており、脳卒中だけではなく高血圧にも関連のある物質であると考えられた。本法は今回検討を行った脳卒中や高血圧に限定されることなく、他の生活習慣病を始めとする多数の疾患に対しても適用可能であることが大いに期待され、現在研究中である。この手法が確立され実際に臨床の現場で適用されることになれば、画期的な診断ツールとなるであろう。