◆生活文化・     過塩素酸塩の人体に対する新たな影響
 エネルギー◆ 

 過塩素酸塩は,今やスペースシャトルやミサイルなどの燃料エンジンの酸化剤として使われたり,身近なところではエアーバック,発煙筒や花火の内部に添加されている。中には軍事利用という好まざる用途もあるが,人々の安全や癒しのために有効利用されていることは“明”の部分である。ところが,人間活動によって大気中に拡散した過塩素酸塩は,飲料・食物から人体に取り込まれてしまい,視覚空間障害,記憶障害などを引き起こすという“暗”が国内外で指摘されている。夜空を彩る花火が“うれしくない”贈り物「過塩素酸塩」の主たる汚染源かどうかを検証する。

【H1011】        日本の過塩素酸沈着における花火の影響

     (熊本大院自然1・テキサス大アーリントン2) ○戸田 敬1・岩堀典子1
      Dyke Jason2・Purnendu K. Dasgupta2
        
[連絡者:戸田 敬,電話:096-342-3389]

 環境中には様々な物質が存在し,過塩素酸塩もそのひとつである。過塩素酸は大気中でも生成し,地上に降下したものは水や土壌,やがては食物や人に取り込まれる。過塩素酸を摂取すると甲状腺ホルモンの生産が阻害されると言われている。米国では飲料水中の許容濃度を定めている州もあり,一部ではあの「ヒ素」よりも低い値に設定されている。米国では,窒素肥料としてチリから輸入した硝石に過塩素酸塩が含まれていた。また,ロケットやミサイルの燃焼推進剤として過塩素酸塩が大量に使われ,これもまた人為的汚染の原因とされてきた。日本では,このような汚染源が乏しいので,過塩素酸塩による汚染は進んでいないと考えられた。このことを確認するため,日本全国の研究者ボランティアが地元の市販の牛乳サンプルを送付して測定を行った。ところが予想に反し,日本の牛乳の過塩素酸塩は米国に比べ2倍近いレベルにあることがわかった。このことから,日本に固有な他の汚染源の存在が示唆される。ここでは,日本における人為的発生のひとつの可能性として,花火から飛散した過塩素酸が地表に沈着しているのではないかと考え,検討を行った。その結果,打ち上げ花火によって過塩素酸塩が降下していることが確認された。また,手持ち花火でも過塩素酸塩が一部そのまま飛び散っていることもわかった。これらの結果と全国の花火の消費量から,花火を起源とした過塩素酸塩の降下量について推定したところ,広域的には高濃度の過塩素酸塩を説明できるほどではなかった。今後,別ルートの起源についても検討していくことが課題である。