◆新素材・      医薬品の腸管吸収性を評価する新規マイクロデバイスの開発
 先端技術◆

 最近の創薬技術の進歩に伴い、医薬品開発の初期段階でヒトにおける薬物動態のスクリーニングを実施する動きが高まっている。そのため腸上皮モデル細胞として知られる Caco-2 細胞を用いた薬剤の細胞膜透過性試験が実施されている。本研究では、この細胞をマイクロチップ内に培養してマイクロ腸管システムを構築し、抗がん剤などの薬物の透過性評価試験を行った。従来法に比べ、少量の試料と短い分析時間で簡便に分析できるという利点に加え、実際の腸管のような流れを再現できることから、より精度の高い腸管吸収モデルシステムとして機能することが期待される。

E3002】        マイクロ腸管システムの開発と物質透過実験への応用

(東大院農学生命)○浅野 恭行,安保 充,佐藤 記一,吉村 悦郎
[連絡者:吉村悦郎,電話:03-5841-5153]

 口から摂取した医薬品や食品成分は全てが体内に取り込まれるわけではない。腸管で吸収されてはじめて体内に取り込まれる。従って、医薬品や機能性食品の開発において腸管吸収性を評価することは非常に重要である。これを評価する方法として、腸上皮モデル細胞として知られるCaco-2細胞を用いた透過性試験が動物実験などの前段階として行われている。これは、シート状に培養したCaco-2細胞を物質がどれくらいの速さで透過するかを試験するものであるが、消費する試薬や細胞量が多い、分析に時間がかかるといった欠点があり、莫大な数にのぼる薬剤の候補物質のスクリーニングには不向きであった。
 本研究ではこのCaco-2細胞シートを用いた透過性試験システムをマイクロチップ化することにより、分析時間の短縮と消費する試薬及び細胞量の低減をはかることを目指して研究を行った。幅750m、高さ100m程度の微細流路を造形した2枚のシリコーンゴムシートでメンブレンフィルターを挟み込む形でマイクロチップを作製し、このフィルター上でCaco-2細胞を培養した。図に断面図の模式図を示す。上側の流路を腸管に見立て、ここに薬剤を含む培養液を送り、フィルター上の細胞を透過して下側の血管に見立てた流路にしみ出してくる薬剤を定量することで透過性を試験する。これまでに抗がん剤などいくつかの化合物での透過性の有無について評価を試みた。本システムは従来法に比べ、少量の試料と短い分析時間で簡便に分析できることに加え、実際の腸管に近い流れのある中での透過性試験が可能であるという特徴を有する。このシステムを応用していくことにより、将来的により効率よく精度の高い腸管吸収のモデルシステムが構築できるものと期待できる。