◆環境・防災◆  これで建材中のアスベストを定量
 現在,アスベストは,悪性中皮腫や肺がんの原因物質として,環境中への拡散が懸念されている。一方,アスベストを用いた老朽建造物の取り壊しが近年増加し,建材中のアスベストの分析に対する需要が増加している。2006 年 3 月に建材製品中の「アスベスト含有率測定方法」の JIS 規格が制定されたが,この規格では,5mass% 以下の試料に対しては詳しく分析手順が規定されているのに対して,建材中の 5mass% 以上のアスベストを定量するための具体的な分析条件は記載されていない。そこで,本研究は,X 線回折分析法を用いたアスベストの分析法の基本的条件を検討したものである。。

【P2012】           建材中アスベストの X 線回折分析

(明大理工) ○旭智治・中村利廣
[連絡者:中村利廣 電話:044-934-7208]

 アスベストは天然の繊維状ケイ酸塩鉱物の総称であり、クリソタイル、クロシドライト、アモサイトなど 6 種類の鉱物の工業的名称である。製品として使われてきたアスベストの 90 % 以上がクリソタイルで、残りの 10 % 程度がクロシドライトとアモサイトである。アスベストは大量に吸入すると悪性中皮腫や肺がんの原因となるなど人体への有害性が見出されており、社会問題となっている。このアスベストは耐熱性や耐久性に優れるため、防音材・保温材などとして建築材料に非常に多く用いられてきた。近年はアスベストの利用規制が施行される以前の建造物が老朽化によって取り壊される時期に差し掛かっており、建材中のアスベストに対する分析の需要は非常に高い。
 建材中アスベストの分析に関する公定法としては、2006年 3 月に「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」の JIS 規格が制定されている。この規格は、5 mass% 以下の試料に対しては定性分析を位相差顕微鏡による分散染色法と X 線回折法で行い、定量分析を試料をギ酸処理してから、基底標準を用いた X 線回折法により定量を行うものである。5 mass% よりも高い濃度の試料は、X 線分析法通則 (JIS K0131) に従って測定するように定められている。しかし、通則には建材中の 5 mass% 以上のアスベストを定量するための具体的分析条件は記載されていない。そこであらためて建材中の比較的高濃度のクリソタイルを定量するための基本的条件を検討した。最適化した項目は、試料の前処理方法 (粉砕・抽出) ,充分な回折強度を得るための測定方法 (関数近似法) ,クリソタイル標準物質の作製などを検討して感度、正確さの向上をはかった。