◆生活文化・     唾液によりたばこを吸っているかどうかを判別 
 エネルギー◆ 

 喫煙者と非喫煙者の唾液を分析することにより両者を区別する方法を検討した。喫煙者の唾液中のチオシアン酸イオンを赤外線分光法により定量すると,非喫煙者や受動喫煙者の唾液よりも高濃度であることがわかった。また,唾液中の他の成分由来のピークにも両者間に差が認められた。本法は患者等にあまり負担をかけることなく採取できる唾液を用い,また微量の試料でも測定可能なため,新しい臨床検査法として期待できる。さらに,光ファイバーなどを用いて口腔中の唾液を直接測定できるようになれば,さらに有用性が増すことが期待できる。

A3017】        赤外分光法による唾液中チオシアン酸の定量分析
                 ?喫煙による唾液への影響

     (東医歯大教養・東医歯大院保健1・東医歯大院総合2)○奈良雅之・山村知里・
       栗原由利子1・山崎統資2
        
[連絡者:奈良雅之, 電話:047-300-7122]

 唾液は、血清などの体液に比べて無侵襲で容易に採取できるという点で、臨床検査への応用が期待されている。本研究では全反射吸収赤外分光法(ATR-FTIR)を用いて唾液成分の状態解析を試み、喫煙、非喫煙のマーカーと言われる唾液中チオシアン酸イオンの赤外バンドを用いて定量分析を行い、その有用性を調べた。このアプローチは、前処理が簡便であり、しかも10〜20L程度の量で測定ができるという点で、新しい臨床検査法として期待できる。
 サンプルは学生ボランティアより無刺激全唾液、刺激全唾液の2種類を採取した。
唾液に含まれるチオシアン酸イオンの赤外バンドは2065 cm-1付近に観測されるので、このバンド強度を用いて定量分析を行った。検体群を喫煙者・受動喫煙者・非喫煙者の3群に分けて無刺激全唾液のATRスペクトルを比較したところ、喫煙者は非喫煙者、受動喫煙者に比べて、チオシアン酸濃度が有意に高いことがわかった。しかし、受動喫煙者と非喫煙者の間には有意な差は見られなかった。刺激全唾液でも無刺激全唾液と同様に、喫煙者は他の2群に比べて有意にチオシアン酸濃度が上昇していた。また、刺激全唾液のチオシアン酸は無刺激全唾液のものに比べて濃度が低くなる傾向があることがわかった。これは採取法の違いにより唾液腺からの分泌量が異なることが原因ではないかと考えられる。無刺激全唾液と刺激全唾液は、チオシアン酸以外のバンドでもスペクトルパターンに違いが観測された。特に、炭酸水素イオンやリン酸イオンのバンド領域は、状態解析の重要な指標になる可能性が高く、pHとの関係で議論する必要がある。
 今回は健常者サンプルを対象としたが、実際に患者検体を採取する際、唾液を出すことが容易ではないという状況が予想される。このような場合、ファイバープローブ型のATR法を用いて口腔内の唾液を直接測定することができれば、微量でも唾液成分を検出することになり、臨床化学的な有用性がさらに明確になるであろう。