◆環境・防災◆  レーザー光を用いて有害な六価クロムをそのまま測る
 金属の表面処理で常用されるクロメート処理では,処理液にも作成したクロメート膜にも有害な六価クロムが含まれるため,WEEE・ RoHS規制によるニーズはもとより,六価クロムの迅速な分析定量が望まれてきた。本研究では従来の溶出による化学分析法に代わって,レーザー光を用いたラマン分光法による六価クロムの検出を行った。更に数種の試料について,化学分析法やX線吸収端構造解析(XANES)法も併せて比較検討を行った結果,ラマン分光法は,溶解などの処理が不要で表面加工もほとんど行うことなく,六価クロムを数分で測定できる優れた簡便分析法であることがわかった。

C1012】      金属表面クロメート処理膜中の六価クロムの分析

(富士通研・富士通分析ラボ1)○肥田祐子・野村健二・横山朋子1・山岸康男1
[連絡者:肥田祐子,電話:046-250-8266]

 金属の表面処理や密着処理などに用いられるクロメート処理には、一般に、その性能の高さと自己修復機能を保持することから六価クロムを含む処理液を用い、クロメート膜中にも一部六価クロムが含まれている。しかし、六価クロムは人体に有害であり、EUにおいてELV、WEEE、
RoHSなどの規制対象に挙げられおり、その有無を確認する必要がある。六価クロムの分析は、純水や酸・アルカリなどの溶液を用いて六価クロムを溶出させた抽出液に、六価クロムに反応するジフェニルカルバジドを加えて紫に発色させ、光の吸収割合で定量する化学分析方法が一般的である。しかし、化学分析では、膜から溶液への抽出効率や状態変化などの課題があり、クロメート膜のまま六価クロムを分析できる手法が望まれている。
 本研究は、先に、クロメート膜の状態分析の可能性を示唆されたRaman分光法に着目し、クロメート処理として一般的なFe基材上Znめっき後のクロメート処理やAl基材上クロメート処理品、標準試料として各クロム酸試薬を用いて、六価クロムとその他のクロムを区別して検出可能かどうかを検討した。さらに、クロメート処理時間やクロメート膜厚との関係、同じく六価クロム分析の検討が行われているXANES法(Spring-8利用)や従来の化学分析法との比較を行ったものである。研究の結果、Raman分光法では、Znめっき上クロメートもAl上クロメートも六価クロム標準試薬と同じ600〜1000cm−1の間にピークが検出され、クロメート処理時間や膜厚により得られる強度に違いがあることがわかった。また、XANES法でも六価クロム特有のピークが検出された。これらを化学分析の結果と比較すると、六価クロム検出の有無について、化学分析、Raman分光法、XANES法の間で相関が得られた。特に、Raman分光法については、試料の加工もほとんど必要無く、数分で測定できることから、クロメート膜中の六価クロムの簡便な分析方法として有効性が期待される。