◆新素材・      超軟X線分光スペクトル測定装置の小型化に成功
 先端技術◆

 X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルは,対象元素の電子状態を反映しており,その分子軌道解析から電子構造解析が可能となる。特に150 eV以下の超軟X線領域では,軽元素のK吸収端や中・重元素のL, M吸収端が測定可能となるが,現在,放射光施設でしか利用できない。本研究では,レーザー衝撃光源を用いることで,超軟X線分光スペクトル測定装置の小型化を実現した。リチウム化合物の測定を行った結果,得られたスペクトルは放射光施設におけるデータと遜色なく,本装置は実験室レベルで軽元素を主体とする高機能性物質の解析・評価に貢献できることが実証された。

P3046】       試料水平型実験室軟X線分光スペクトル装置の開発(3)

(福岡大理・阪電通大工・コベルコ科研)○脇田久伸・谷口一雄・渡部 孝・栗崎 敏
[連絡者:脇田久伸 電話:092-871-6631ex6218]

 最近,150eV以下の超軟X線(USX)XANESスペクトルが注目されている。XANES法は試料内で注目する相互作用をもたらしている原子の吸収端スペクトルを与え,その分子軌道解析から電子構造解析が可能な特異な分光法である。特にUSX-XANES法は超軽元素のK吸収端XANESスペクトルのみならず中・重元素の高次吸収端スペクトルを与える。しかし,この測定には高強度で安定なUSX光源が必要であるため通常,放射光を用いた超軟X線分光装置を要するが超軟X線分光装置を装備した放射光施設は少なくその利用は時間的,場所的に制約がある。そこで、本研究では,米国内で市販されている極端紫外反射率装置から着想した標題の装置を開発した。

【方法】今回作成した装置は, 50-150eVの高強度USX光を,強力で安定なパルス可視光レーザーをターゲット物質の微小スポットに衝撃することで発生させる。生じたUSX光はミラーで集光し,分解能E/dEが10000を越える分解能をもつ高分解能回折格子で分光する。分光されたUSX光を試料に入射し,透過光を高精度の電子収量法で検出し各種スペクトルを測定することが出来る。
【結果と考察】レーザー衝撃光源を用いることで超軟X線分光スペクトル測定装置を小型化することが可能となり、通常の実験室系スペクトル計測装置と同様に試料を水平に設置したまま測定できる装置が製作できた。性能評価を行うために使用する試料としてリチウム化合物を用い測定を行った。測定結果はDV-Xα分子軌道法やADFなどのプログラムを用いて解析した。得られた解析結果は今回作成した試料測定装置の性能評価を行うための標準として用いた。本装置によって得られたスペクトルは測定範囲内においてシンクロトロン光施設で得られたスペクトルと遜色がなかった。これらの結果より、本装置の測定範囲内においては実験室レベルでシンクロトロン光施設と同等の軟X線分光スペクトルが得られることが示され、本装置が軽元素を主体とした高機能物質の解析・評価に大いに貢献することが分かった。