◆新素材・     金ナノ微粒子でラベル化いらずのアミノ酸の高感度検出
 先端技術◆ 

 キャピラリー電気泳動でアミノ酸を分離・検出する際には適当な蛍光試薬によるラベル化が必要不可欠であり,操作の煩雑化や試料の変性を招いていた。熱レンズ顕微鏡の励起波長に局在プラズモン吸収を示す金ナノ微粒子を泳動液の添加剤として加えると,試料成分の有無によって吸収強度が大きく変化する現象が発見された。これにより吸収を持たないアミノ酸の高感度検出が実現した。この原理を利用すれば吸収や蛍光を持たないあらゆる物質を化学反応によるラベル化をすることなしに高感度に測定することが可能となり,医療や食品等の分野への応用が期待される。

P3060】    金ナノ微粒子を用いたキャピラリー電気泳動−熱レンズ顕微鏡検出の高性能化

(京大院工) ○秋本嘉宏・津禰鹿毅・北川文彦・大塚浩二
[連絡者 : 大塚浩二, 電話 : 075-383-2447]

 キャピラリー電気泳動 (CE) は高分離能,高速分析等の特徴を有しているが,その一般的な検出法であるUV検出法は感度が低く,高感度検出法であるレーザー励起蛍光法 (LIF) は試料の蛍光誘導体化の操作を必要とする等の問題点が指摘されている。そこで本研究においては,非蛍光性試料の高感度検出が可能な熱レンズ顕微鏡 (TLM) 検出法のCEへの適用 (CE-TLM) およびTLMの励起波長に吸収をもたない試料の検出について検討を行った。これまでCEにおいてUV吸収を示さない試料を分析する際には,泳動液に吸光試薬を添加してUV検出を行う間接法等が適用されてきたが,本実験においてはTLMの励起波長に局在プラズモン共鳴 (LPR) 吸収を示す金ナノ微粒子 (GNP) を泳動液への添加剤として利用することに着目した。LPRの吸収強度はGNP周囲の媒体の性質 (屈折率,溶液組成など) に大きく依存することが知られており,試料の有無によりGNPの吸収強度が大きく変化することが期待される。そこで紫外・可視領域に吸収をもたないアミノ酸のラベルフリー検出について検討を行った。
 クエン酸還元法により作製したGNPの吸収スペクトルを測定したところ,アミノ酸を添加することでLPR吸収が変化し,TLMの励起波長付近においてはその吸収強度が増加することが確認された。そこでGNPをグリシン−クエン酸塩緩衝液に分散した溶液を泳動液,グルタミン酸 (Glu) を試料としてCE-TLM測定を行ったところ,図のようなエレクトロフェログラムが得られた。泳動液のゾーンではほぼ一定の熱レンズ信号が得られたのに対し,170 s 付近にGluに由来する理論段数2.9×105の鋭い

ピークが観測された。一般的な間接法を用いた場合には下向きのピークが観測されるのに対し,本手法では上向きのピークとして検出されており,GNPの吸収スペクトルの変化を反映しているものと考えられる。また,Gluのピーク面積はその濃度に直線的に依存しており,検出限界は25 ppm であった。以上の結果より,GNPを添加剤として用いることでGluのラベルフリー検出が可能であることが確認された。今後,表面に機能性官能基・分子を固定化したGNPによる選択的分離検出や,周囲の環境により敏感な中空型GNP の適用による高感度化等が期待される。