◆医療・生命◆ 脳機能のその場計測のための生体膜グルタミン酸センサーの開発

 グルタミン酸は記憶や学習に関わる神経伝達物質であり,脳内で検出することにより脳機能の理解に役立つ情報が得られる。著者らは先端の直径1.0μm以下の微小なガラスキャピラリー先端にグルタミン酸認識能を持つ脳細胞感応膜を取り付けセンサーとした。本センサーは脳領野に比べ遙かに微小であることからより狭い局所領域のグルタミン酸放出量を2秒以内に,妨害物質の影響なく,サブμM〜数μMの濃度範囲で定量可能である。本センサーによりマウス海馬領野ごとのグルタミン酸放出量を定量したところ放出量の領野依存性が認められた。

E2009】        In situ 生体膜グルタミン酸センサーの開発と応用

(日大文理) ○嶋根三好・宮川香織・菅原正雄
[連絡者:菅原正雄、電話:03-3329-1151]

 グルタミン酸はほ乳類脳内に存在する記憶・学習に関わる神経伝達物質である.グルタミン酸を脳内のその場で検出することは長期増強現象などの脳機能の理解に重要である.これまでにin vivo での測定を目的としたダイアリシス電極や培養細胞を対象としたセンサーなど異なるタイプのグルタミン酸センサーが報告されている.しかし,いずれのセンサーも脳領野に比べてサイズが大きい,グルタミン酸を感知してから応答するまでの時間が長い,タンパクの吸着の影響があるなどといった脳内その場でグルタミン酸濃度を測定するには一長一短があった.本研究では,先端直径1.0μm 以下の微小なガラスキャピラリーを用いて急性スライスから脳内生体膜がもつグルタミン酸認識機能をそのまま取り出して感応膜として使用した生体膜グルタミン酸センサーを開発した.本センサーは,サイズが1.0μm 以下と脳領野に比べてはるかに微小なことからより狭い局所領域のグルタミン酸を検出することができ,また感応素子として生体分子を用いることからグルタミン酸に対して約2秒の応答速度を実現できた.さらにグルタミン酸認識機能をそのまま取り出すことによって妨害物質(タンパク質など)の影響なくグルタミン酸を検出することができる.センサーはサブμM〜数μM のグルタミン酸に応答した.抑制性神経伝達物質GABAを刺激として海馬領野ごとのグルタミン酸放出量を定量した結果,CA1 とDG からはグルタミン酸の放出が見られたが,CA3 からは見られなかった.また,同じCA1 領野内の異なる領域でのグルタミン酸放出量についても検討した結果,錐体細胞>放腺層 分子層の順にグルタミン酸放出量は減少した.