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煎茶が歴史的建造物を支える
 京都西本願寺御影堂は建立後約400年で2度目の大修復作業中で,文化財保存の観点から屋根瓦用の鉄釘を防錆化して再利用する。本研究では,古来利用されてきた煎茶での煮沸処理による防錆技術の効果を自然科学的に検証するために,煎茶の成分であるタンニンあるいは煎茶を鉄と反応させて,表面の鉄錆層の変化を電子線マイクロアナライザで分析した。その結果,両者でタンニン酸鉄の存在が,後者では煎茶由来のリン酸鉄の存在が示唆された。煎茶処理では両保護膜による2重の防錆効果が期待できるが,実際の暴露試験でも煎茶処理試料は鉄錆の発生を最も抑制することがわかった。

【E1018】         煎茶による古鉄釘の防錆化とその評価

(武蔵工大院工・武蔵工大工)○越智泰之・平井昭司・岡田往子
[連絡者:平井昭司, 電話:03-5707-2109]

 1636年に建立された西本願寺御影堂(京都)は1810年に大修復され、次いで1998年から平成大修復が行なわれている。御影道の屋根瓦を止めていた瓦鉄釘を文化的な価値から後世に残すため、防錆化し再利用することとなった。その防錆化の手段として古来、南部鉄釜あるいは刀の鍔に利用されてきた煎茶での煮沸処理技術を本鉄釘にも採用した。
 本研究ではこの処理技術の自然科学的効果を調べるため、煎茶の成分であるタンニン(タンニン酸)あるいは煎茶と鉄とを反応させ、鉄錆層の変化を調査・観察した。反応により生じたタンニン酸鉄は安定化し鉄錆の進行を抑えると考えられている。また、煎茶を使用することは、廃液に有害な化学物質が含まれないので、環境に優しい処理技術となる。

 未処理試料と煎茶煮沸処理試料をEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用い分析し、表面の鉄錆層がどのような変化をしているかを観察した。また、比較のためにタンニン酸水溶液を調製し、煎茶とタンニン酸水溶液の処理結果の違いも観察した。実験の結果、煎茶煮沸処理とタンニン酸水溶液煮沸処理の双方で、タンニン酸由来のCとO(鉄錆中とタンニン酸に存在)の新たな層が検出され、タンニン酸鉄生成の可能性を見出した。また、煎茶処理試料のみに煎茶由来のPの膜の生成が確認でき、このPがリン酸鉄として表面に存在すれば、タンニン酸鉄とリン酸鉄の2重の防錆効果が期待できる。さらにこれらの試料を温度40℃、湿度90%以上の装置内に設置し曝露試験を行い、表面の変化を観察した結果、4ヶ月経過した段階で煎茶煮沸処理試料が鉄錆の発生を最も抑制していることが分かった。