◆環境・防災◆   小さな撹拌子で水道水中の農薬を集めて高感度分析
 水道水中の農薬は人の健康に直接影響を与えるため,多種類の農薬の一斉高感度分析法が望まれている。これまで様々な方法で水道水中の農薬を濃縮する試みがなされてきたが,多くの方法では有機溶媒を用いるなど,環境への影響が指摘されていた。本研究では,小さな磁石でできた撹拌子(スターバー)の表面に農薬を吸着する特殊な薬品(ポリジメチルシロキサン)を塗布し,これを水道水にいれて回転させ,表面に農薬を吸着させた後,高感度分析法であるガスクロマトグラフ質量分析法で分析した。その結果,水道水や河川水中の68種類の農薬の濃縮とその高感度分析が可能となった。

【F3009】 スターバー抽出-加熱脱着GC/MSによる河川水中農薬68成分の一斉分析法の検討

(横河アナリティカル)○中村貞夫・代島茂樹・山中一夫
[連絡者:中村貞夫、電話:0426-60-9925]

 近年、ミネラルウォーターの消費量の増大や家庭用浄水器の普及に象徴されるように、水に対する社会的関心は非常に高く、水道水についてはさらに安全性、信頼性を確保するため、平成15年に水質基準が改正され水質管理が充実、強化された。なかでも農薬については国民の関心が高いことから、現時点の知見を踏まえ、毒性の程度を勘案した重み付けによる総農薬方式が採用された。対象農薬は101成分と非常に多いため、できるだけ一括して簡便に効率良く測定することが望まれる。近年、簡便で高感度な抽出法としてスターバー抽出(Stir Bar Sorptive Extraction)が注目されている。これは高分子液相であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を撹拌子にコーティングしたものを抽出に用いる手法であるが、他の手法に比べPDMS液相のコーティング量が多いため高回収率が期待できる。さらに、有機溶媒を使用しない抽出法のため、作業者および地球環境にもやさしい。
 本研究は、対象農薬のうち誘導体化なしで固相抽出-GC/MSで測定可能な農薬68成分について、スターバー抽出を適用し前処理の簡略化とその一斉分析を図った。これらの農薬は、水道法では固相抽出により水試料500mlを処理しジクロロメタンで溶出し最終的に1mlに濃縮するため手間がかかるが、スターバー抽出では僅か10mlの水試料にスターバーと塩化ナトリウム3gを入れ攪拌するだけで簡単に抽出が完了した。抽出農薬のスターバーからGC/MSへの導入は加熱脱着により全量導入が可能なため、本手法は非常に高感度であった。図にスターバーおよび抽出時写真を示した。水道水より夾雑物の多い河川水においても殆どの農薬について各農薬10ng/l(目標値の100分の1)が精度良く定量可能であった。

図 スターバーによる簡便な抽出