◆新素材・
 先端技術◆ 
細胞の機能を解明するための標的分子を不活性化する技術の開発

 生体分子の機能を解明するために,目的とする機能だけを不活性にして,活性の時と比較することで詳細な研究が可能となる。機能を調べたい分子と特異的に結合するリガンドを細胞内に導入し,細胞の特定部位にレーザーを照射すると,リガンドがラジカル種を発生し標的分子を破壊するため,機能が停止できる。この方法で生理的に重要な細胞内Ca2+動態を制御しているIP受容体を不活性化し,生理的に重要なシグナルであるCa2+オシレーションを変化させることができた。

【J1017】    細胞膜透過性小分子プローブを用いたレーザー分子機能不活性法

(東大院薬1・東大院医2・JSTさきがけ3)○余郷 能紀1・菊地 和也1, 3・井上 尊生1・廣瀬 謙造2
飯野 正光2・長野 哲雄1
[連絡者:長野 哲雄、電話:03-5841-4850]

 生体分子の機能解明には、分子生物学・薬理学・生化学的に分子機能を不活性化する手法が有効である。すなわち、標的分子の機能を止め、その分子が正常に働いている時と比較することで、機能を詳細に調べることができる。ところで細胞は一様な構造体ではなく、限定された細胞内局所における効率的な機能発現が重要であると考えられており、観察対象とする生体分子が情報伝達の下で機能している瞬間に、機能している場所で機能を不活性化すれば、細胞が生きている状態での真の姿を明らかにできる。しかしながら、細胞が生きた状態で時空間を制御した不活性化をすることは既存の手法では困難であった。そこで我々は、時間と場所を特定して分子機能を調べるために、有機化学の技術で作り出した小分子プローブとレーザー照射を組み合わせて標的分子を不活性化する新たな技術を開発した(small molecule-based chromophore-assisted laser inactivation; smCALI)。機能を調べたい分子と特異的に結合するリガンドを細胞内に導入し、その後細胞の特定部位にレーザーを照射する。レーザーのエネルギーを吸収したリガンドはラジカル種を生成し、標的分子を破壊し不活性化する(Fig. 1)。このように、レーザーを狙いた

い場所に当てると当てた瞬間に機能を止めることができるため、生きた状態でタンパクの機能について詳細に調べることが可能になると考えられる。CALIの標的分子としては、細胞内Ca2+動態を主に制御しているIP3受容体を選択した。合成したリガンドを細胞内に導入し、レーザーを照射するとIP3受容体が不活性化され、生理的に重要なシグナルであるCa2+オシレーションを変化させることができた。Ca2+シグナルは時間的にも空間的にも厳密に制御されており、下流の情報伝達を調節していると考えられている。このため、今後IP3受容体の時空間的な役割を詳細に調べることで、Ca2+シグナルにおいて新たな知見が得られると期待される。