◆医療・生命◆ マイクロ免疫化学システムの開発と血中腫瘍マーカーの定量
 数センチ角のマイクロチップ上に,抗体修飾ガラスビーズを用いた免疫反応部,電気泳動によって目的試料を輸送する部分,化学発光検出する部分を組み込んだマイクロ空間分析システムを構築した。本装置を用いるとコントロール血清に添加した腫瘍マーカーである免疫抑制酸性タンパク質を数分以内に分離・定量することが可能であった。腫瘍マーカーに限らず抗体を修飾したガラスビーズを本装置に組み込めば分析対象を同様に分離・定量可能である。将来的には,何でも,どこででもはかれるパーソナル分析装置が実現可能である。

【H3006】  化学発光反応を利用したマイクロ空間分析システムの開発と
       腫瘍マーカー検出への応用

(同志社大工)○塚越一彦・神野直哉・中島理一郎
[連絡者:塚越一彦,電話:0774-65-6595]

 我々は、高い分離能と優れた検出感度を有する分離・検出手段として「キャピラリー電気泳動-化学発光検出」装置の開発を行なってきた。今回、これまで得られた知識・技術に基づき、『マイクロ空間分析システム』を開発した。
 『マイクロ空間分析システム』の概略を図に示した。数cm角のマイクロチップ上で、(1)抗体修飾ガラスビーズを使っての免疫反応を通じ分析対象物のみの分離を行ない、つづいて(2)電気泳動によって反応溶液の輸送および試料プラグの形成を行なう。そして、最後に(3)化学発光検出する。すなわち、特定試料を簡便・迅速かつ特異的に分離・検出する超小型分析装置である。
 腫瘍マーカーの簡便・迅速な分離・検出法の開発は、分析化学者に与えられた重要な社会的責務のひとつである。そこで、本『マイクロ空間分析システム』を使って、腫瘍マーカーの分析を試みた。コントロール血清中の免疫抑制酸性蛋白(腫瘍マーカー)を数分以内で分離・定量することができた。パーソナル型分析装置による腫瘍マーカー検出の実用化の可能性が示された。
 免疫反応、電気泳動、化学発光検出をマイクロチップに組み込んだ『マイクロ空間分析システム』は、将来的には、「なんでも」「どこででも」はかれる分析装置に成り得る可能性をもつ。

 「なんでも」:生化学方面の技術革新により、現在あらゆる抗原に対して、抗体を生成することが可能になりつつある。ダイオキシンのような比較的低分子の化合物に対しても抗体が生成可能になってきた。腫瘍マーカーに限らず、分析したい対象(抗原)に対する抗体を修飾したガラスビーズを『マイクロ空間分析システム』に組み込めば、その分析対象(抗原)を免疫反応(抗原抗体反応)を通して、分離・定量することができる。
 「どこででも」:十分な小型化が可能で、どこへでも持ち運ぶことができ、オンサイト分析が可能になる。数cm角のマイクロチップ上に、免疫反応リアクタ、電気泳動流路、および化学発光検出リアクタが組み込まれている。免疫反応も化学発光検出も化学反応に基づくものであり、大型周辺機器を必要としない。分析装置の
パーソナル化が期待できる。

マイクロ空間分析システム