◆生活文化・
 エネルギー◆ 高分子可塑剤DEHPの高感度分析による医療用具のリスク評価

 医療用具などに多用されているポリ塩化ビニル(PVC)製樹脂には,柔軟性を付与するために可塑剤としてフタル酸ジエチルへキシル(DEHP)が添加されている。この化学物質はげっ歯類に対しての毒性が知られているが,PVC製医療用具は有用性が高いため多用されているのが現状である。本研究では,これまで微量で検出困難であったDEHPとその分解物のLC/MS/MSによる検出が可能となった。乳幼児や妊婦などへの影響が懸念されるPVC製医療器具からのDEHPの流出とその影響について調査することにより,リスク評価への応用が可能である。

【J1006】      LC/MS/MSによるPVC製医療用具から溶出する可塑剤の分析

(星薬大・アプライドバイオシステムズ1)○瀬下文恵・伊藤里恵・山崎晴子・井之上浩一・
小梶哲雄1・斉藤貢一・中澤裕之
[連絡者:中澤裕之,電話:03-5498-5765]

 ポリ塩化ビニル(PVC)製樹脂は、加工性及び滅菌操作に対する耐久性に優れ、廉価であることから、輸液セット、血液バッグ及びチューブ類をはじめとした医療用高分子製品の原材料として多用されています。これら高分子製品に柔軟性を付与するために可塑剤(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル;DEHP)が添加されています。この化学物質は、げっ歯類に対して精巣毒性や発生毒性を示すことが確認されており、医療現場においては血液や脂溶性医薬品、経口・経腸栄養剤などを介してヒトが暴露されると考えられています。また、DEHPはフタル酸モノエチルヘキシル(MEHP)に分解し、DEHPよりも分解物であるMEHPの方が毒性が強いとの報告もあります。近年では、化学物質に対する感受性が高いと危惧される乳幼児や妊婦などを対象として、一部では代替品への移行が進められています。しかしながら、PVC製医療用具の有益性は高く、未だ使用量は多いのが現状であり、医療行為に伴うDEHP及びMEHP暴露に対するリスク評価が求められています。そこで、本研究ではDEHP及びMEHPの迅速かつ高精度な分析法を構築し、DEHP溶出挙動のさらなる解明を目的としました。
 これまでにもDEHP分析法が報告されていますが、DEHPは私たちの生活環境中に広く存在する化学物質であるため、空気や水、試薬といった実験環境からの混入が避けられず、正確な分析値を得るのは困難でした。本研究では、試料前処理過程を簡略化し、全てをオンラインで処理する閉鎖系のシステムとすることで、実験環境からのコンタミネーションの低減化を達成しました。具体的には、カラムスイッチングによるオンライン固相抽出法を利用した液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計(LC/MS/MS)を用いています。また、もう一つの特徴として、MS/MSの高い選択性を利用し、通常のカラムによる分離を行わずに検出器へ導入することで、短時間での迅速分析が可能となったことが挙げられます。構築した方法の実用性を検証するため、DEHP溶出報告のある医薬品の分析に本法を適用したところ、輸液チューブへのDEHP移行量の測定を迅速かつ高精度に行うことができました。今後の展開として、本法は、DEHP及びその分解物であるMEHPの同時分析法として、医療行為に伴うDEHP暴露に対するリスク評価への応用が期待されます。