◆ 新素材・   動脈硬化疾患等の血管内皮障害を見分ける新規診断法の開発
 先端技術◆   

 高齢化社会の到来とともに,動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳梗塞などが増加している。これらの疾患は血管内皮障害に基づいており,その病変部の特異的な造影が極めて有効な診断法となるが,いまだに有効な造影剤が開発されていない。本研究では,血管内皮障害をセンシングする色素分子を発見し,その色素誘導体を核磁気共鳴映像法(MRI)造影剤に結合させることにより,新規なMRI造影剤を開発した。この造影剤は,血管内皮障害の部位を特異的に染色するため,MRIによる観察が可能となり,動脈硬化の早期診断法の開発への応用が期待される。
【1G23】 血管内皮障害センシングを指向した新規MRI造影剤

  (九大院工1・九大院医2)○山本 竜広1・生田 健次郎1・大井 啓司2・上徳 豊和2・阿部 弘太郎2
              村田 正治1・吉満 研吾2・下川 宏明2・片山 佳樹1
  [連絡者:片山佳樹, E-mailykatatcm@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp]

  
 
近年、我々を取り巻く社会環境の変化や長寿社会の到来と共に、血管病変を主体とする動脈硬化性疾患が
急速に増大しており、心臓・血管といった循環器系における疾患は今後ますます増大することが予想される。
これら循環器系疾患において、血管病変形成の極めて初期の過程で血管内皮細胞の機能障害が生じることが
明らかとなっている。従って、血管において将来増悪する可能性の高い不安定な病変部位である内皮障害部
位を特異的に造影できれば、極めて有効な診断手法となり得る。しかしながら、これまでにそのような造影
剤は例がない。この様な造影剤を開発するためには、内皮障害部位に選択的に結合できるユニットが必要と
なるからである。心臓疾患では、冠動脈における血流量が極めて大きいため、非常に多くの造影剤あるいは
薬物を用いる必要があり、これまでの様に高価な生体分子を用いるターゲティングは不可能である。すなわ
ち、これらの目的に供する為には、全く新しい血管内病変ターゲティングの概念を創製する必要がある。
 本研究では、まず、血管内皮障害センシングを達成する分子として、ある種の色素分子を基本骨格とする
ユニットが内皮障害部位特異的な新規ターゲティング分子として有効であることを確認した。これは、内皮
障害に基づく血管内面のマクロな物性変化に起因するものである。次いで、これを踏まえて、図に示す造影
概念を創製した。用いる化合物は内皮障害部位センシングユニットとして色素誘導体ユニットとMRI
(Magnetic Resonance Imaging) 造影剤ユニットの二つを結合することにより構成される。本造影剤を摘出後、
一部血管内表面に内皮剥離を誘発した豚大動脈血片と相互作用した結果、血管内皮障害部位を特異的に染色し、
その集積に伴うMRIシグナルの増大を観察した。本結果より、本機能化造影剤は、今までに無い血管内皮障害
特異的な新規診断法への応用が期待できる。