◆医療・生命◆  微生物の分離と検出にマイクロチップの技術を応用
 医療や食品などの分野では,微生物の種類や個数を正確にかつ迅速に把握する必要がある。しかし,現状では,
微生物の同定は煩雑で時間のかかる培養法が用いられている。本研究では,簡便な微生物の分離と検出が可能な
マイクロチップを試作した。マイクロチップ中の内径0.1mm以下の細管に微生物を入れ,細管の両端に高電圧を
かけると,微生物の種類により細管内での移動速度が異なるため,微生物の分離と検出が可能となる。本法では,
マイクロチップ内で微生物を扱うため,安全に有害微生物を検査することができる。
【3H134】  微生物分離検出のための電気泳動マイクロチップの試作

  (産総研、愛媛県工技セ1)○鳥村政基・新谷智吉1・佐藤浩昭・田尾博明
   [連絡者:鳥村政基、E-mail:torimura-masaki@aist.go.jp]

 我々の社会生活における多くの場面(医療・食品・環境など)で、どんな微生物がどれくらいの個数で存在するかを正確に把握する必要性は非常に高い。その検査対象となる微生物は環境浄化や食品製造に寄与するような有用な微生物だけでなく、ごくわずかな存在でも悪影響を及ぼす病原菌など多種多様であり、その微生物の検知(定量)に緊急性を要する場合も少なくない。現状ではこうした検知は培養法をベースにした生化学的試験による同定法に依存しており、高度な技術はもちろんのこと結果取得までに数日間という多大な時間が要求される。また、近年発展してきた分子生物学的手法を用いた検出法に関しても満足な迅速性を期待することは難しい。
 本研究では、内径100 mm以下の細管内に存在する微生物細胞に細管の両端から高電圧を印可した時に、移動する速度が細胞の種類によって異なること(図参照)を利用して、迅速簡便に微生物を分離して検出するためのマイクロチップを試作した。微生物細胞の存在する細管内に満たす溶液の種類を工夫することで、従来は規則正しく移動しなかった微生物も足並み揃えて移動するようになり、結果として迅速かつ簡便な微生物検知が可能になった。
 こうした技術をマイクロ化することにより、微生物検査の現場における本法の利便性が高まるだけでなく、人に有害な細菌等を対象にした検査においては取扱が安全な使い捨てチップとしての利用も期待できる。