◆ 生活文化・      安定同位体比測定から有明海ノリの色落ちの原因を探る
 エネルギー◆
 深刻な漁業被害である有明海での養殖ノリの色落ち現象を解明するため,色落ち程度の異なるノリ検体と養殖期間中に経時的に採取した検体の炭素及び窒素の安定同位体比を測定した。その結果,色落ちが顕著になるほど15N/14N値は小さく,13C/12C値は大きくなることが判明し,ノリの増殖の際に水中で摂取される炭素や窒素の起源が異なることが示唆された。また,施肥は一時的に有効な対策であるが,それだけでは不十分であることも明らかになった。安定同位体比の変動を調べることによって色落ちノリ現象の発生を予知できる可能性が示された。
【1Y68】  炭素及び窒素安定同位体分析による有明海ノリ色落ち現象の解明


  (日大生物資源科学部・佐賀県水産振興セ1)○金倫碩・片瀬隆雄・上田眞吾・高春心・川村嘉応1
   
[連絡者:片瀬隆雄、E-mail:katase@brs.nihon-u.ac.jp]


 2000年度に広範な有明海養殖ノリの色落ち現象が起こった。2001年度はほぼ正常に回復した。これまでに、1999年以前に採取したノリの7検体、2000年度の8検体、2001年度の6検体の炭素及び窒素安定同位体比(δ15N及びδ13C)を測定したところ、それぞれ各グループで相互に負の相関が見られた。色落ちが起こった2000年度のノリのδ15Nは最小でδ13Cは最大であった。そこで今回、2002年度のスサビノリ(Porphyrayezoensis)の養殖期間中に、ノリの色落ちが起こるまで経時的に採取したノリのδ15Nとδ13Cの相関を求めた。
 今回の養殖期間中のノリで色落ちがあった試料はδ15N値が小さく、δ13C値が大きくなり、両者の相関が負の傾向を示した。すなわち、この傾向は、2000年度に自然界で起こった色落ち現象と同じであることを確認した。ノリの増殖に伴い水環境中の炭素源のCO2が少なくなるので、ノリはδ13Cの大きいなHCO3-を摂取することになり、その結果、ノリのδ13Cは大きくなる。その際、クロロフィル量が増大するに伴い水中の窒素栄養塩濃度が低下してくる。そのためにδ15Nが小さい施肥や降雨によって供給された窒素を摂取することになり、ノリのδ15Nも小さくなる(図)。このことから色落ちノリ現象が起こりつつある状況を安定同位体比測定によって、事前に予知できる可能性が示された。色落ちノリの予防策として、施肥は一時的に有効なことが示されたが、本法によって施肥だけでは不十分であることが明らかにされた。さらに、安定同位体比変動との関係で、ノリの色落ち要因を明らかにすることが今後の課題である。