◆環境・防災◆  水環境に与えた人間活動の影響を河口域底質の分析から探る
 近年,都市域の水質悪化が大きな社会問題となっている。河川などの底にたまる泥すなわち底質は水質の履歴を示す指標と考えられ,人口が集中する河口域底質は,水環境に与えた人間活動の影響を評価する際の格好の分析対象となる。本研究では長崎県諫早湾や千葉県境川などの底質を柱状に採取し,複数元素の濃度測定と化学状態分析を行い,それらの垂直分布を調べた。その結果,ケイ素と水素濃度の間に負の相関が確認された。また,ケイ素と水素濃度の関係と鉄の化学形態は深さにより異なり,人間活動による溶存酸素量の変化と深く関係していることが分かった。
【3P56】   河口域底質中に含まれる多元素の濃度及び化学状態の垂直分布

  (東大院総合文化・東大院理1)○高橋統・片岡正樹1・久野章仁・松尾基之
   [連絡者:松尾基之]

  近年、都市域の水質の悪化が大きな問題となっており、河川、近海での水質のモニタリングが数多く行われている。この水質のモニタリングの一環として、水の底にたまる泥(以下、底質)の分析が行われている。河川水が川から海へと流出してしまうのに対し、底質は河川水から川底へ沈殿したものが層状に積もっていき保存される。
従って、底質は水質の履歴を示す指標と考えられる。特に河口域は人口の集中域にあたり、人間活動の影響を受けやすい場所であるため、河口域の底質は人間活動の影響を測るのに興味深い対象となる。
  さて、底質を水質の指標として扱うには底質が水質からの影響を保存している必要があるが、実際には底質は水中から沈殿して堆積してからも様々な化学変化を起こす。従って、この化学変化の影響を考えなければ底質を水質の指標として扱うことはできない。そこで、本研究では底質を柱状に採取し鉛直方向に区切って複数元素の濃度測定、化学状態分析を行い、その垂直分布を調べた。これにより、ある元素が増えているところで他の元素が減っていれば、それらの元素の組は化学反応によって底質中で置き換わったと考えられる。
  今回の調査結果から、Siが増加するところではHが減少するという関係が見られた。ただし、長崎県諫早湾の底質では深くなるにつれてSiが減少しHが増加するのに対し、千葉県境川の底質では深くなるにつれてSiが増加しHが減少した。このSiとHの関係については、初期続成作用という一連の反応が考えられるが、この結果は諫早湾では深いところで反応が進み、境川では浅いところで反応が進んでいるということを示す。なぜこのようなことが起こったのかについて、検討を行う。
  また、今回の測定を行った底質中では57Feメスバウアー分光法により中層部で鉄の硫化物の一種であるPyrite(FeS2)が生成していることが確かめられた。底質中のPyriteは酸素が少ないところで生成されることが知られているので、今回測定を行った底質も、深さによって鉄の存在形態が変化していることから、酸素の少ない層が形成されているものと考えられる。