◆環境・防災◆  環 境 ホ ル モ ン 汚 染 の 実 態 を 探 る
 内分泌かく乱化学物質いわゆる環境ホルモンは,微量でも水生生物に生殖異常を引き起こすことが報告されている。環境ホルモン物質の中でビスフェノールA(BPA)はポリカーボネートやエポキシ樹脂などの原料や酸化防止剤に多く使用されている。本研究では環境水中のBPAをガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により高感度で定量する分析法を確立して,淀川水系の河川水のBPA濃度を測定した。その結果,下水処理場の下流や汚水の流入する地点でのBPA濃度が高い傾向にあった。また,高分子からのBPAの溶出はフミン物質(腐植物質)が共存する場合増加することが分かった。
【1P43】   ビスフェノールAなどの内分泌かく乱物質による環境汚染の実態解明

  (京都工繊大・工芸1、環境科学セ2) ○福井 瞳1、布施泰朗2、山田 悦1,2
   [連絡者:山田 悦、E-mail:eyamada@ipc.kit.ac.jp]


 近年、環境汚染化学物質が内分泌かく乱物質として微量でも生体の正常なホルモン作用に影響を与え、野生生物の生殖機能や生殖行動異常をひき起こすことが報告されており、ヒトへの影響も懸念されている。ポリカーボネート(PC)やエポキシ樹脂などのプラスチック原料や酸化防止剤として広く用いられているビスフェノールA(BPA)や塩化ビニールの可塑剤であるフタル酸エステル類も内分泌かく乱物質として知られている。内分泌かく乱物質はppt〜ppbレベルという非常に微量で生体に作用すると考えられており、内分泌かく乱物質による環境汚染の実態を解明するためには、高感度で簡便な定量法が必要である。
 本研究では、環境水中のBPAの高感度な定量方法として、固相抽出法で濃縮後、トリメチルシリル化してGC-MSで測定する方法を確立し、環境水中でのBPA測定に適用した。桂川・宇治川・木津川と3河川が合流する淀川の淀川水系河川水中のBPA濃度は15.1-216pptの範囲で、桂川の下水処理場の下流や汚水の流入する地点ではBPA濃度が高いことがわかった(Table)。桂川上流の鴨川のBPA濃度は数10ppt程度で、その下流より低濃度であった。木津川のBPA濃度は上流でも他の河川より高濃度であった。プラスチックからのBPA及びフタル酸エステル類の溶出実験を種々の条件下で行い、プラスチック製品からこれらの物質がどの程度溶出するかを明らかにした。例えばpH7に調整した100mlの蒸留水に細断した塩化ビニールコード10gを加え、25℃で36時間振とうすると2.82μg/gのBPAが溶出した。環境中の主な有機物質であるフミン物質(腐植物質)が共存する場合は、水への溶出が増加し、内分泌かく乱物質による環境汚染にフミン物質が影響している可能性があることを見いだした。