◆環境・防災◆  汚染土壌中の有機ヒ素化合物を分解する菌を新発見
 最近の新しい環境浄化技術として,微生物を利用して汚染物質の分解・除去を行うバイオレメディエーションが注目を集めているが,そのためには効果的な菌の探索が不可欠である。汚染物質の中でも農業用除草剤などとして使用される有機ヒ素化合物は,特に深刻な問題を引き起こす。本研究では,このような土壌中の有機ヒ素化合物を無機ヒ素化合物へ分解する菌を迅速かつ簡便に見付け出すスクリーニング法を開発し,今回初めて3種の有機ヒ素分解菌を発見することができた。今後はこのような菌を利用することで,汚染土壌を安全かつ低コストに浄化することが期待される。
【1E23】   還元気化原子吸光法によるヒ素汚染土壌のモニタリング及び有機ヒ素化合物分解菌の探索

  (金沢大院自然1・金沢大工2)○竹田教子1、牧 輝弥2、長谷川 浩2、上田一正2
    [連絡者:長谷川 浩, E-mail: hhiroshi@t.kanazawa-u.ac.jp]

 有機ヒ素化合物は、生物に対して特有の毒性作用を示すことから、農業用除草剤、殺菌剤、抗菌剤として利用され、環境中に排出されてきた。その汚染の中でも特に深刻なのが化学兵器として用いられたルイサイトやジフェニルクロロアルシンによる土壌汚染で、ヒ素による井戸水汚染が社会問題化している茨城県神栖町では旧日本軍が廃棄した有機ヒ素化合物が汚染源として疑われている。また、広島県大久野島や中国などでも化学兵器やその原料に汚染された区域が隔離されている。
 最近、環境に広範囲に広がった汚染物質を除去・無害化する手法として、微生物や植物を利用したバイオレメディエーションやファイトレメディエーションが注目を集めている。有機ヒ素の土壌汚染にこれらの手法を適用する場合、有機ヒ素を無機ヒ素に分解する有機ヒ素分解菌が未だ発見されていないことが課題であった。そこで本研究では、土壌試料から有機ヒ素分解菌を迅速かつ簡便に見つけだすことのできるスクリーニング法を開発した。汚染管理区域の土壌中に存在するヒ素の濃度分布を化学形態別に測定するとともに、高濃度の有機ヒ素を含む土壌試料からヒ素耐性菌を単離し、ジメチルジチオカルバミン銀を用いた比色法により有機ヒ素分解菌を探索した。その結果、約60種のヒ素耐性菌の中から3種類の有機ヒ素分解菌を発見することができた。自然界のヒ素循環において、これまでもヒ素を酸化或いは還元するバクテリアや無機ヒ素を有機化するバクテリアは多く見いだされていたが、有機ヒ素分解菌を単離・同定した例は今回が初めてである。
 他の研究グループより、既に土壌中から高濃度の無機ヒ素を吸収する植物が報告されている。新種の有機ヒ素分解菌と組み合わせることで、有機ヒ素に汚染された土壌を安全かつ低コストに毒性低減できる技術につながるものと期待できる。