日本分析化学会第50年会(創立50周年記念大会)について
第50年会実行委員会委員長(熊本大学工学部)谷口 功
 激動の20世紀から共生と調和の21世紀への転換かと期待を大きく膨らませていたところ,人間の狂気によりいとも簡単に文明社会が創り出した産物が考えもしない巨大な凶器になることを思い知らされることとなった。我が国の社会構造の改革・改編も急ピッチで進んでいる。大学の役割も正面から問い直されている。この背景には我が国の未来を賭けた科学技術創造立国のための戦略や若年人口の極度の減少などがあろうが,大きな歪みが社会に蓄積されつつあることも事実である。これに正面から向かい合うために新しい質の科学技術の展開が期待されている。分析化学もまた然りである。自ら創り出した化学物質の安全性を計測管理することはもとより,今後,倫理問題までを含めた危機管理の基礎となる新しい分析化学の出現が益々重要になってくると思われる。我が国が科学技術のあらゆる面で世界的なリーダーシップを発揮するためには,一人一人が自らの意思を明確にしながら未踏分野の科学の進展に大きく寄与することが必要になろう。激動激変の時にあって,我が国がアジアの懐の深さと繊細さを持った文化基盤に裏付けられて,独自の科学技術によって活躍する時代とするチャンスでもある。初心に返って,又,情熱と誇りを持って新しい次元の科学技術を生み出すのは我が国であるように思われる。 

 21世紀最初の日本分析化学会第50年会は本学会創立50周年記念大会として,11月23日(金)〜 25日(日)に熊本大学工学部において開催されます。本大会は,これまでの歴史を踏まえて未来を指向する大会として我が国の科学技術の飛躍の第一歩になると確信しています。従来の一般講演,ポスターセッション,研究懇談会講演,テクノレビュー講演,付設の展示会等に加えて,昼食時に,企業等からの分析科学・分析機器に関する最新の情報をセミナー形式で説明いただくランチタイムセミナーも企画されています。留学生・若手研究者主体の国際交流の場としての英文ポスターセッションを設定し,本年会実行委員会主催の3つのシンポジウムでは,生命科学における分析化学の役割や分析化学のこれまでを振り返りながら21世紀の分析化学教育を考え,更に分析化学の新しい動向を探ります。日本分析化学会創立50周年記念式典及び記念講演も年会の中で挙行されます。800件を越える講演と1500名余りの研究者・技術者・学生・OB・その他幅広い関係者の方々が参加される予定です。

 この小冊子は本年会で発表される講演の中から,特に社会的にも重要で一般の皆様の関心が高いと思われる研究発表を選んで分かりやすく解説したものです。これらを通して,分析化学のおもしろさや大切さと社会における役割の重大さをご理解いただき,日本分析化学会の活動の一端をご理解いただければ幸いです。