◆新素材・先端技術◆       DNAの損傷を超高感度に検出
 DNAは,様々な環境因子により損傷を受け,修復が正常にできないと突然変異が誘発され,がんや老化の一因となる。最も多く見られる損傷である塩基の脱落を,その部位に特異的に結合する分子と蛍光色素を封入したリポソームを用いて,高感度かつ簡便に検出する方法を開発した。この方法は,目視による検出にも,イメージアナライザーによる定量にも使える。1万個の塩基に1個の割合で起こる脱落を検出するのに必要なDNA量は,わずか500ピコグラム(pg) であり,従来の酵素アッセイ法の約1/1000という微量である。
【3F21】     蛍光色素含有リポソームを用いた損傷DNAの高感度検出

(日大文理)〇酒井佳穂里・平野愛弓・菅原正雄 [連絡者:菅原正雄,電話:03-3329-1151]
 DNAはある種の化学物質や紫外線等にDNAが曝されると,DNAから塩基が脱落する損傷が起こる.この脱塩基部位は,生理条件下においても自発的に生成する.また,脱塩基部位は他の DNA損傷(塩基のアルキル化や付加物の生成)の修復過程でも生成し,DNAの中で最も多くみられる損傷である.正常に修復されなければ突然変異を誘発し,癌や老化の原因となる.また,損傷はDNA分子の一部の部位でのみ起こるので高感度に脱塩基部位を検出する方法は重要である.今まで,脱塩基部位の検出法としては,DNAを酵素で断片化した後クロマトグラフィーを用いて検出する方法や,脱塩基部位と特異的に結合する分子aldehyde reactive probe (ARP)を用いた酵素アッセイが提案されてきた.本研究では,蛍光色素を含有するリポソームの表面に脱塩基部位と特異的に反応するARPを結合させ,このリポソームを用いてDNA中の脱塩基部位を高感度かつ簡便に検出する新しい方法を開発した(図).それによりDNAの必要量を大幅に減らすことができた.
リポソームはその内部水相に高濃度の蛍光色素を封入できる.その結果,蛍光色素の分子数に応じた増幅検出が得られる.ポリL-リジンを被覆したカバーガラス上に固定した子牛胸腺DNAにARP化リポソームと反応させ目視による検出を行った.その結果,1 pg(1g の1兆分の1の重さ)のDNAを用い104ヌクレオチドにつき1個の割合でしか存在しない微量の脱塩基部位を検出できた.また,色素の蛍光を測定すれば,脱塩基部位の数も定量できる.ポリL-リジンを被覆したカバーガラス上で損傷DNAにARPをあらかじめ結合させた後,色素含有リポソームと反応させ,洗浄する.その後蛍光イメージアナライザーにより検出した.その結果,500 pgのDNAを用い,104ヌクレオチドにつき1個の割合で存在する脱塩基部位を検出できた.この際のDNA必要量は,酵素アッセイ法(200 ng)の約1/1000である.今後,実際の細胞からDNAを抽出,さらに特定の部位でDNAを切断する酵素と組み合わせれば,脱塩基が起こりやすい塩基配列についての知見なども得られることが予想される.