大気中の残留性有機汚染物質(POPs)のサンプリングと前処理

鶴川正寛・中野武(兵庫県立健康環境科学研究センター)

 石英繊維濾紙または活性炭素繊維濾紙およびポリウレタンフォームを用いたハイボリュームエアサンプラー(以下Hi-volと略す)と固相吸着剤Ps-Air(Waters社製)を用いたローボリュームエアサンプラー(以下Low-volと略す)による大気中のPOPsの捕集を検討した。また、それぞれの捕集サンプルの前処理法についてクリーンアップを含め検討したので報告する。
吸着捕集剤の調製
 購入直後の大気捕集用ポリウレタンフォームは多くの不純物を含んでいるため、残留農薬分析用アセトン500mlを用い16〜24時間、ソックスレー抽出装置により予備洗浄を行う。予備洗浄後、真空乾燥器を用いて減圧乾燥を行い、使用に供した。
 石英繊維濾紙は電気炉で約600℃、2〜3時間熱処理したものを用いた。
 活性炭素繊維濾紙は、ソックスレー抽出装置によりトルエン及びアセトンでそれぞれ8時間以上洗浄し、減圧乾燥したものを用いた。

試料の採取 (パワーポイントスライドショー)
<Hi-vol>
 吸引流量約700l/minで24時間、石英繊維濾紙又は活性炭素繊維濾紙とポリウレタンフォーム2個に吸着捕集した。
<Low-vol>
 固相抽出カートリッジ(Ps-Air: Waters Sep-Pak Plus Short)を2段連結して、吸引流量約3.5〜4l/minで24時間捕集した。

前処理及び調製
<Hi-vol>
 石英繊維濾紙を用いる場合は、ポリウレタンフォームと合わせて、アセトンにてソックスレー抽出又はASE抽出(高速溶媒抽出)後、ヘキサン転溶を行う。ASE抽出条件は後述する。ADVANTEC 5A濾紙で濾過し、無水硫酸ナトリウムで脱水後、窒素ガスを吹き付け1mlまで濃縮する。濃縮液をSupelco製Lc-Siシリカゲルカラムを用いてヘキサン20mlでクリーンアップ後、溶出液を再び窒素ガスを吹き付けて1mlに濃縮する。
 活性炭素繊維濾紙を用いる場合は、トルエン/エタノール(4:1)の混合溶媒でASE抽出を行う。
 なお、ASE抽出条件は、オーブン温度150℃、抽出圧力2000psi、オーブン昇温時間7分、設定温度保持時間10分、フラッシュ容量60%、保持サイクル数2回、パージ時間100秒とする。
 抽出液は無水硫酸ナトリウムで脱水し、ADVANTEC 5A濾紙で濾過する。濾液はロータリエバポレータで約1mlに濃縮後、Supelco製Lc-Siシリカゲルカラム(6ml容、0.5g)を用いて、ヘキサン20mlでクリーンアップ後、溶出液を再び窒素ガス吹きつけで1mlに濃縮する。
 以上の操作で前処理した試料に内標準液(p-ターフェニルd14、フェナントレン-d10、各1ppm)を、 10
ml添加し、高分解能GC/MS分析用試料とした。

測定条件
 GC/MS条件
 使用機器:GC HP社 HP-5890 MS JEOL社 JMS-700
 カ ラ ム:BPX35, 25mx0.22mmID, 0.25
mm
 カラム温度:120℃(2min)−20℃/min−180℃(0min)−2℃/min−220℃−10℃/min−300℃
 キャリアガス/流量:He/1.0ml/min  チャンバー温度:250℃
 注入口温度:250℃       イオン化エネルギー:38eV  イオン化電流:500
mA
 接続管温度:250℃          注入量:1
ml

回収率
 Hi-vol法において、石英繊維濾紙+ポリウレタンフォーム及び活性炭素繊維濾紙+ポリウレタンフォームの比較検討を行った。サロゲート物質を石英繊維濾紙と活性炭素繊維濾紙に添加しサロゲート物質の吸着部位を比較した結果、石英繊維濾紙の場合にはポリウレタンフォームにもサロゲート物質が移行していたが、活性炭素繊維濾紙の場合にはポリウレタンフォームへの移行は見られなかった。
 HCBについては、石英繊維濾紙の場合回収率が10%程度と低かった。HCBは石英繊維濾紙及びポリウレタンフォームでの吸着能が低く、抜けてしまっているものと思われる。一方、活性炭素繊維濾紙の場合は、HCBにおいても80%前後の回収率が得られた。
 下表にPs-AirとHi-vol(活性炭素繊維濾紙使用)を用いて24時間サンプリングした場合と、Ps-AirとLow-vol(活性炭素繊維濾紙、約23l/minの吸引流量にて使用)を用いて1週間サンプリングした場合の回収率を示す。
 これらの結果から、Ps-Airは吸着能が高く、前処理操作が濃縮のみであることもあり、サロゲート物質を用いた添加回収試験では良好の性能を示した。

Ps-Air
24hour (n=2)

Hi-vol. carbon
24hour (n-2)

Ps-Air 1week
(n=1)
Low-vol.
carbon 1week
(n=2)
13C12-α-HCH
78.6
52.3
54.7
31.9
13C12-γ-HCH
76.6
44.2
60.5
28.4
13C12-β-HCH
69.6
43.2
54.0
34.6
13C12-aldrin
48.7
46.4
29.9
38.7
13C12-dieldrin
92.0
38.4
67.9
45.2
13C12-endrin
79.2
65.7
87.2
85.6
13C12-ring-p,p'DDE
68.2
61.3
64.0
51.4
D8-ring-p,p'DDD
68.7
70.4
67.2
44.4
13C12-ring-p,p'DDT
52.4
52.5
58.2
35.0
13C12-heptachlor
68.2
55.6
78.4
46.8
13C12-heptachlor-epoxide
84.2
65.4
70.4
58.8
13C12-trance-chlordane
78.1
69.9
66.9
57.8
13C12-trance-nonachlor
88.0
75.9
78.2
63.8
13C12-cis-nonachlor
96.3
77.4
81.4
57.0
13C12-HCB
159.0
83.7
131.9
88.5