第1回環境分析研究懇談会バーチャルワークショップ
演題番号3

アルキルフェノール類の大気中濃度分析法

(川崎市公害研究所)浦木 陽子

 LC/MS法を用いた大気中アルキルフェノール類(ブチルフェノール,ペンチルフェノール,ヘキシルフェノール,ヘプチルフェノール,オクチルフェノール,ノニルフェノール)の分析法開発を行った。分析法の概要としては,捕集剤としてアスコルビン酸を含浸させたSep-Pak Plus Silica Cartridgeを用い,0.7~0.8L/分の流速で24時間,1m3の大気試料を捕集した後,アセトニトリル4mLで溶出し,LC/MS(ESI法)で定量する。この方法におけるMDLは0.11~1.75ng,IDLは0.066~1.1ng,定量限界は0.34~5.6ng/m3であった。また分析全体を通しての添加回収率は25℃で98~123%の範囲であった。

【はじめに】
 近年,アルキルフェノール類は,内分泌かく乱の疑いのある化学物質としてSPEED98'の67物質にリストアップされるなど注目を集めている。水質,底質,水生生物に関しては,平成10年よりGC/MS法による全国的な濃度調査が行われているが,アルキルフェノール類は半揮発性化合物であり,GC/MS法で感度を向上させるためには誘導体化等による水酸基のマスキング処理を必要とするのが現状である。
 また,アルキルフェノール類の大気分析においては,捕集段階における酸化分解の影響が大きく,通常の捕集方法では良好な回収率を得ることが出来なかった。
 本研究では,大気中アルキルフェノール類を,アスコルビン酸含浸シリカゲルを捕集剤として,酸化分解を抑制しながら捕集すると共に,半揮発性及び難揮発性化学物質の分析に適しているLC/MS法を用いて,より簡便な前処理で高感度に測定する手法を検討調査したので,その結果について報告する。

【実 験】
<分析法概要(Fig.1参照)>

     
 アセトニトリル10mLでコンディショニングした後,5%アスコルビン酸溶液約2mLを含浸させたWaters社製Sep-Pak silicaカートリッジをエアサンプラーに接続し,大気試料1.0m3を1L/分程度の流速で24時間通気して捕集する。その後,4mLアセトニトリルで溶出し,内標準を加えて試料液とし,LC/MS-ESI-で測定を行う。
<装置・器具・試薬等>
LC:Agilent Technologies社製HP1100,Waters社製ALLIANCE2690
MS:アプライドバイオシステムズ社製 API3000,Waters社製 PLATFORM LCZ,日本電子社製 LC-mate
試薬:ブチルフェノール(環境分析用),ペンチルフェノール(環境分析用),ヘキシルフェノール(環境分析用),ヘプチルフェノール(環境分析用),オクチルフェノール(環境分析用),ノニルフェノール(環境分析用),ノニルフェノール_d4,ビスフェノールA_d16,アスコルビン酸 (特級)は全て関東科学社製,残留農薬試験用アセトニトリル300は和光純薬工業社製,超純水はMilli-Q
分析カラム:Develosil C30 2.1mm×15cm(野村化学社製)
<分析条件>
LC:2%アセトニトリル/H2O(3分保持)→15分→98%アセトニトリル/H2O(6分保持)でグラジエントを行う。流速は0.2ml/min,注入量は10uL
MS:イオン化法はESI-,モニターイオンは以下の通り。
ブチルフェノール149/117
ペンチルフェノール163/106
ヘキシルフェノール177/106
ヘプチルフェノール191/106
オクチルフェノール205/106
ノニルフェノール219/106
ビスフェノールA_d16(サロゲート)241/223
ノニルフェノール_d4(内標準物質)223/110

【結果及び考察】
 Fig.2にアルキルフェノール類のSIMクロマトグラムを,Fig.3に検量線を示す。

     

 大気中アルキルフェノール類の添加回収率は,25℃で98〜123%とおおむね良好であった(Fig.4,Table.1)。
     

また,Table.2に示すように,定量限界は0.34〜5.6ng/m3,MDLは0.11〜1.75ng,IDLは0.066〜1.1ng,試料保存性は冷暗所10日間で73〜123%であった。また,川崎市公害研究所屋上で大気中アルキルフェノール類濃度を測定したところ,いずれも検出されなかった。
 
 なお,同様の分析法でビスフェノールAについても検討を行ったが,前処理及び機器ブランクの影響が大きく,環境濃度レベルでの定量の妨げとなった。現在,ブランクを小さくする手法について検討中である。

【まとめ】  本研究では,アスコルビン酸含浸シリカゲルを捕集剤として,大気中アルキルフェノール類の捕集中酸化分解を抑制し,良好な添加回収率を得たと共に,LC/MS(ESI法)で高感度な分析を可能にした。今回の環境測定例では大気中からアルキルフェノール類の検出はなかったが,捕集法,検出法共に,他の化学物質や他の環境媒体へ適用するのに有効なデータであると思われる。

発表者連絡先
〒5214-0021 神奈川県川崎市川崎区田島町20-2 川崎市公害研究所 大気騒音研究担当 浦木陽子
Phone:044-355-5811, Fax:044-355-5837