第1回環境分析研究懇談会バーチャルワークショップ
演題番号1

環境汚染物質の分析におけるLC/MSの活用

日本ウォーターズ)○米久保 淳、佐々木 秀輝、一木 満貴子

【目 的】
 近年、残留農薬や環境中の有害物質の分析に従来のGC/MSに加え、不揮発性や熱不安定成分に対するLC分析の有用性からLC/MSの利用も試みられている。この一因として、複雑なマトリクス中でLCの分離能でもMS検出による特定イオンの選択性を利用したマスクロマトグラムや選択イオンモニター(SIM)による検出が、それを補って余りある成果をもたらす点に起因している。一方、MS検出が有するもう一つの特性として、質量情報やGC/MS法に多用されるEIイオン化によるフラグメント(構造)情報による定性能が挙げられる。今回、1) 通常の単一イオン(擬分子イオン)を使用したSIM mode によるBenomylの高感度分析、2)In Source CIDによって得られる疑分子イオンとフラグメントイオンの比率からLC/MSの持つ感度と有用性を損失する事無しに化合物の定性を行うという観点からMethomylについて、標準試料とモデル及び実サンプルに応用した例を報告する。

【実 験】
 実験1.Benomyl,2.Methomyl共に装置はWaters社製Z−spray型MS検出器付きAlliance LC/MS Systemを使用した。
(分析条件)

HPLCMS

Column:Waters Symmetry C18、2.1x150mm3.5μm
Mobile phase:A―1.Benomyl = H2O
          2.Methomyl = 10mM CH3COONH4
        B―Methanol
Flow rate:0.25ml/min.
Inj.volume:10μL
Ionization:ESI +/-
  Scan: m/z 100-350
SIM:
 Pseudo Moleculer / Fragment ion



                        
【結果及び考察】
1.Benomyl Benomylは溶液状態では、Fig.1に示したようにMBCとして存在する為、モニターイオンにはm/z=192 を使用した。Fig.2,3に標準品及び実試料のUV及びMSクロマトグラムと目的ピークのスペクトルを示した。
      
 
この様な分離状況において、モデル試料(土壌標準品添加)ではUVクロマトグラムからのピーク確認、ピーク面積からの定量が困難なのに比べ、MSクロマトグラムからは挟雑物の影響を受ける事無く明瞭に単一なピークが確認され、その定量精度の向上が確認できると共に、UVスペクトルでは困難な同定もMSでは標準品のそれと同等のスペクトルが得られている。単一イオン(擬分子イオン,MH+)を使用したSIM mode による0.1ppb標準品のSIM及び0.1-1000ppbにおける検量線をFig.4,5に示した。
      
この検出モードを用いた10ppb標準品添加のモデル試料の定量結果をtable 1 にまとめた。高感度で良好な定量性・再現性 (Fig.6)を示した。
      
2.Methomyl本化合物のCIDフラグメントをFig.7に示した。先のBenomylに比べ、擬分子イオン(MH)+の他に、構造に帰属可能な特徴的フラグメントイオンが生成可能な為、このCID条件条件で実サンプル(生体)への適用を試みた。Fig.8に標準品及び実サンプルからの、特徴的な2つのフラグメントイオンと擬分子イオンの比率を示した。選択した3イオンの比率が完全に一致する事で、より精度の高い定性分析が高感度で可能であった。擬分子イオンやベースピークイオンを定量及び確認イオンとして用いる方法は GC/MS (EIイオン化法)では多用されている手法である。そこで、本法による各イオン強度の再現性を検討したところ、Table 2 に示したように、良好な値が得られた。
      
 
この様な結果から従来GC分析が困難とされていた環境汚染物質に対し、LC/API イオン化法の高感度検出という利点を大幅に損なう事無く、GC/EI イオン化法の持つ高い定性能を有したLC/MSの環境分析への応用の可能性が示唆された。


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